第5章 〜遊戯〜
「っ…く」
元流斎の太刀を往なしながら、頭に流れてくる痛烈な感情に戸惑った玲は、慌てて彼から距離を取った。
信じていた者に刃を向けられる恐怖。
愛しいが故に傷付けられない躊躇い。
自分が自分で無いことへの悔恨と痛み。
流れてくるそれらを許容仕切れなかった玲は、彼女が望む通りに思考と記憶の同期を断ち切った。
「は、っー」
痛む胸を押さえながら、元流斎に向き直る。
降りしきる雨のお陰で、溢れた涙は彼には気付かれないだろう。
「もう良いか?」
此方の異変に気付いたのか、攻撃の手を休めてくれていた彼に頭を下げて、呟いた。
「天照、第二解放」
ごぅと霊圧を解放した天照が、玲の背に黄金の翼を創り出す。
天候も完全に天照の支配下に下った。
叩きつける様に勢いを増した雨の中、周囲の水分を蒸発させているが故に唯一濡れていない元流斎が、目を見開く。
「一つ教えてあげる。天照の始解は三段階。卍解は更に二段階。彼女に抗える斬魄刀は、対を成す破壊の剣だけ」
背の翼を少し動かすと、金色の羽が元流斎へと弾丸の如く飛来する。
「それは…恐ろしいのぅ」
致命傷は斬魄刀で往なした彼だったが、その速度と切れ味に、幾つもの傷を負う。
金色の羽は彼の後ろの壁に、深く突き刺さって止まった。
総隊長である元流斎も、漸くその途方の無さを理解した。
自分が制御出来る力を遥かに超えている事を。
もう、彼の口から強い言葉は出ては来ない。
開かれた瞳は、ただ一点を見つめていた。
「来るが良い」
重く威厳のある声音は、最後の虚勢か。
「全力で止めてね」
静かな声と共に膨大な質量の水流が、青い切っ先から放たれた。