第5章 〜遊戯〜
「逃げるなよ!」
氷輪丸を抜いた冬獅郎は、全力で逃げる玲に痺れを切らして水と氷の龍を放つ。
豪雨と日照りを断続的に繰り返す天候ならば、大気中の水を操る彼の斬魄刀も無力ではない。
寧ろ、雨によって齎される水蒸気で、普段よりも威力が上がる。
「いや、鬼ごっこだから、ね?!」
咄嗟に方向を変えて龍の突進を避けた玲の前に、冬獅郎は回り込んだ。
「その割には護廷隊の被害がでかいみたいだな?」
「ちゃんと致命傷は避けてるよぅ」
再び身体を翻して逃げる玲は、本体と思考、記憶を同期しておきながら、自我が芽生えてしまった事を悔いていた。
本当の玲と何もかも同じだったなら、或いは彼も攻撃する事に少しは躊躇いを見せたかもしれない。
思考や記憶の同期さえしていなければ、或いは自分も応戦できただろう。
けれど。
中途半端に自我だけが芽生えた、玲と同一の心を持つ彼女には、創造体であるが故に自身が彼に抱く感情を理解出来てしまっていて。
追ってくる銀髪の青年を傷つける事に全身が拒絶を示していて。
結局、涙目になりながらも、逃げる事しか出来無いのだ。
—本体、お願いだから思考リンクだけでも切って!
このままでは、自身の感情が玲に流れてしまうと懸念して。
玲で有りながら玲になり切れない彼女は、逃げ回りながら心の中で叫ぶしか無かった。