第1章 〜欠片〜
「で?潜在能力がなんだって?」
何時も背にあった氷輪丸が腰に差せる事に、微かに喜びを覚えながら。
振り返った玲は、安心した様に笑って、事細かく説明を始めた。
潜在能力とは魂魄が持てる霊力の限界値。
それは魂魄毎に違っていて、俺の潜在能力は飛び抜けて高かったこと。
霊力を手に入れてからの霊圧上昇が早すぎて、本来魂魄が霊力に慣れるために必要な期間をすっ飛ばしていた為に魂魄が不安定だった事。
そのせいで、身体が成長出来ていなかった為、魂魄が霊力に馴染むまで時間操作を掛けて安定させた事など。
そして、もう一つ。
と、玲は続けた。
「冬獅郎が持ってた氷輪丸は完全な斬魄刀じゃ無かったみたい。本来は一本だったのが二本に別れちゃって、ちゃんとした力を発揮できなかったみたいだね」
その言葉に目を見開く。
此奴には過去まで見えるのか。
そんな畏怖を感じていると、腰の氷輪丸が光る。
「ほら。氷輪丸、元に戻るよ。多分、冬獅郎の霊圧がこの子をちゃんと扱えるぐらいまで上がったからかな?」
ふわりと笑うその表情に、過去の苦い記憶の面影は見えない。
知っている者なら、蔑みの視線を向けたっておかしく無いというのに。
視線を氷輪丸に戻すと、どこからとも無く現れたもう一本の氷輪丸が、溶け合って一本の斬魄刀になった。
手に握ると、今までとは比べ物にならない霊圧を感じる。
確かに、これでは、昨日までの自分では触れることさえ出来なかっただろう。
「…済まなかったな…」
自分の斬魄刀に声を掛けると、氷輪丸はふわりと一度だけ光った。
まるで、気にするなとでも言う様に。
斬魄刀を腰に差し直して玲を見ると、穏やかに微笑んでいた。
見るものを自然に安堵させる様な、優しすぎる瞳。
その表情を見て、冬獅郎は言葉を飲み込んだ。
その昔、同じ斬魄刀が二本あるというだけで、尸魂界を追放された男の事も。
その際にその男を斬ったのが自分だということも。
此奴が知っているようには、見えなかったから。