第1章 〜欠片〜
ぼうっとする頭で、身体を起こす。
なんで身体の節々が痛いのかと、首を傾げながら周りを見回した冬獅郎は、其処が自分の隊の隊主室だと理解する。
が、何時も山の様になっている書類が一枚も無い。
眉を寄せて視線をずらすと、濡羽色の長い髪がさらりと落ちた。
一度視界に入ると焼き付いて離れないその美し過ぎる容姿。
澄み切りすぎて視線を合わせる事を躊躇わせる琥珀の瞳。
あぁ、思い出した。
この女が口止め料だとか言ってすぐ、六杖光牢で縛られて、意識奪われて…。
そこで冬獅郎は自分の霊圧が異様に上がっていることに気付く。
序でに、肌蹴た死覇装と、何時もと様子の違う身体にも。
「…ん…あ、れ。私寝てた…?」
丁度良いタイミングで目を覚ました玲に冷たい視線を送る。
上がった霊圧のせいで、何処と無く冷気まで纏ってる気がするのは気のせいではない。
丁度今まで彼奴が寝ていた長椅子が凍っていくからだ。
「わぁ、冬獅郎!霊圧、抑えてよっ!序でに服も何とかして」
襲い来る氷には突っ込まずに、彼奴は琥珀色の視線を全力で逸らした。
「…説明が先だ」
氷輪丸を解放してもいないのに、自在に操れる氷で玲の足元から磔にしながら、自分でも驚くほどの低い声を放った。
「う~…やっぱ霊圧、上げすぎた?斬魄刀が常時解放になってるよぅ…」
涙目でちらりと此方を確認し、またすっと目を逸らす玲に何故かイラッとする。
応えない事にではない。
まともに此方を見ない事に、だ。
無言で氷の龍を型作ると、玲は渋々口を開いた。
目を逸らしたまま。
「う~…冬獅郎の潜在能力の限界値まで霊圧引き上げただけだもん。序でにちょっと不安定だった魂魄安定させただけだもん…」
奴が”だけ”と強調するそれで、自分の力も身体も様変わりしている事が気に食わない。
「…もう少し分かりやすく言え」
そこでやっと此方をみた玲の瞳が濡れていて。
今にも泣きそうなその表情に苛立ちがすっと消え失せた。
大きく溜息を吐いた冬獅郎は、手を振って氷を消す。
突然消え去った脅威に目を瞬かせた玲は、首を傾げる。