第4章 〜華奢〜
そんな事をすればさっきの行動の意味が無くなるから、どうにか感情を抑え込んで。
「…まだ懲りねぇか?」
怯えて逃げ出すか、拒絶して鬼道でも放つか。
そんな行動を予測しながらも、もう此奴は前の様に笑ってくれないだろうな、と軋む心はどうにもならなくて。
「…っいいもん」
震えながら溢した言葉は、拒絶でも、言霊でも無かった。
「は?」
一瞬思考が止まって、間抜けな声が漏れる。
「っー…酷いこと、されてもいい…一人になる方が…怖いもん…」
震える声が紡ぐ言葉は俺の行動よりも、孤独への恐怖で。
なにがそこまで此奴を怖がらせるのか、理解してはやれない。
が、震えながら、それでも出て行こうとしない玲に、俺の方が折れてしまった。
近付いてそっと手を伸ばすと、びくりと身体を震わせながらも逃げようとはしない此奴を、これ以上傷付けることも、突き放すことも出来そうに無かったんだ。
「…分かった。一緒に居てやるから…」
そっと髪を撫でると、少しずつ玲の震えは治まって。
恐る恐る羽織を掴む手を、振りほどく事なんて出来る訳が無かった。
暫く離れそうに無い玲に、ここ最近慣れてきた冷気を操ってグラスを作り、そこに水を満たして渡すと。
きょとんとしながら受け取った玲が、俺の腰に挿さっている氷輪丸を見遣る。
「…なんか天照に似てきたね」
その言葉は独り言なのか、氷輪丸に向けた言葉だったのか。
こくこくと動く白い喉や、未だ涙に濡れた瞳に触れたい気持ちは変わらない。
けれど。
結局、怯える此奴に痛む心を俺が持ち合わせている以上、手を出すなんて出来ないのかもしれない。