第3章 記録にしないで(ラビ夢)
段々と冷たくなっていくシュリの体を支えながら、オレはしばらく呆然としていた。
人の死は呆気ないものだ。
人の命は儚い。
シュリもまた、儚く散ってしまった。
まるで桜の花びらの様に。
オレは空っぽになった心で、シュリに渡された紙を開いた。
そこには、綺麗な字でこう書かれていた。
"大好きな貴方へ。
いつか死ぬ時が来たらこれを貴方に渡すつもりで書いているので、今貴方がこれを読んでいるということは、私は死んでしまったのでしょう。
貴方の目に私はどう映っていましたか?
きっと冷酷な人間に見えてただろうね。
私は悲惨な歴史を記録していく内に、自分はブックマンには向いてないと思い始めました。
戦争は、悲しみを生むだけ。
戦争は、憎しみを生むだけ。
戦争は、尊い命が奪われるだけ。
沢山の犠牲を見て、私は自分の感情に蓋をすることにしました。
そして、偽りの自分を演じることで現実から目を背け、淡々と歴史を記録していくことにしました。
そうじゃないと、辛すぎるから。
貴方は私を愛してると言ってくれたね。
本当は凄く嬉しかったの。
でもいつか、貴方を失うことがあったら私は堪えられないと思ったから、冷たく接しました。
本当に、ごめんね。
本当は、貴方のことを愛してる。
最後に一つだけ我が儘を聞いて下さい。
私の死を、歴史の一部にしないで。
ただの記録にしないで。
ブックマンとしてではなく、貴方の心に刻んで下さい。
私が生きていたという証を。
今までありがとう。さようなら。"
手紙はそこで終わっていた。