第1章 『近くて遠い』
「おはよ」
「う、んーー」
目をしょぼしょぼさせながらまだ覚醒しきってない様子のマイコを見て、真意を確かめたい衝動と闘っていた。
そんな俺の気持ちなんて微塵も知らずに目を閉じたままニコリと笑顔になって「おはよ」と俺の首に腕を巻きつけて来た。
俺の葛藤は一瞬で消えうせてねだられるままに口付ける……
この感触、この体温、この匂い、この味、この時間……
すべてを失いそうでどうしても聞けずにいる
「さぁ、今日はどうしようか?ドライブでも行く?」
「え?ドライブ?行けるの?」
「行けるよ、なんで?」
「だって、誰かに見られたら」
「あー、大丈夫だよドライブくらい」
「えー、でも」
SNSや写真誌を気にしないといけない立場は俺の方なのにいつもマイコの方が気にかける。
俺のこと考えてくれてるんだと思って嬉しかったけど今はもう誰のためなのか?
「ルームサービスで朝食食べてー、それからシャワー浴びてー、支度してー、ドライブ行こ?ね?久しぶりだし、ね?いいでしょ?」
時間は有限だということはわかってるけど、マイコといる時間はそれを痛いほど感じる。
ほんの少しの時間しか一緒にいれないから、だから楽しい時間を過ごしたいんだ。
たとえ上辺だけでもいいから。
「んー、どこに行こうかなぁ?」
部屋に運ばれてきた朝食を食べながら考えた。
「どこがいいかなぁ?」
「そうだなぁ、じゃあディズニーランドにでも行っちゃう?」
本気で言ったわけじゃない、そんな所に二人で行けるわないし。
でも、本当に行きたいんだよ?
「え?行けるわけないでしょ」
と、ちょっと口調がきつくなった。
「ごめんごめん」と笑って見せたけど自分で言ってて悲しくなってきた。
「よしっ!じゃ、鎌倉あたりにでも行ってー、景色が綺麗な場所探さない?」
「鎌倉?」
「うん、けってーい!!」
高速を飛ばし鎌倉に向かった。