第18章 硫黄降る街
――さぁ、その銃を構えて。私を撃ち殺して。
「君が空けた穴を埋められる存在なんて他にはいないんだ。もう君でも無理だけど。」
「この5年間、俺はシビュラシステムの実態を掴む為に血眼になって来ました。首都圏各地に設置されたサーバーに寄る分散型並列処理。鉄壁のフォールトトレラントを実現した理想のシステム。それが厚生省の謳い文句です。まぁ実際、全国民のサイコパスを測定し分析するともなれば膨大な演算が必要になる。当然ネットワークを経由したグリッド・コンピューティングでもしない限り追い付かない。ところがね、検証すればする程データの流れ方が明らかに可笑しい。街中のスキャナー、公認カウンセリングAI、そしてドミネーター。一見グリッドを巡り巡っているかのように見えたデータが実は全てたらい回しにされているだけだった。そこでようやく気付いたんです。シビュラを巡る全ての通信が必ず一度は経由する中継点がただ一箇所だけ存在する事に。もしそこに誰も知らないスタンドアローンのシステムが隠されてて、全てのシビュラの処理演算をソイツ一機が賄っているのだとしたら。全て辻褄が合うんです。」
「やはり君は天才だね。」
クスクスと楽しそうに槙島は笑った。
「まぁ、不可解なのはその性能ですよ。もし孤立したシステムだとするとソイツは既存の技術では説明の付かないスループットを発揮している事になる。そもそも一箇所に集約している意味も分からない。保安上のリスクを考えればどう考えても危険すぎる。」
「――或いは敢えて危険を侵してまで秘匿性を保ちたいのだとしたら。」
「そう言うこと。ここまで胡散臭いとなるとね。もう確かめなきゃ気が済まなくなりますよ。シビュラシステムの正体ってヤツを――。」
「そして君が確かめた問題の施設はここか。」
バスはやがてノナタワーの前に止まった。
「サイマティックスキャンで収集されたあらゆるデータの中継点。オマケにこのエリアの消費電力、明らかに偽装されている形跡があります。ほぼ間違いなくシビュラシステムは、この厚生省ノナタワーの中にある。」
「――さぁ、それでは諸君。ひとつ暴き出してやろうじゃないか。偉大なる神託の御子の腸を。」
槙島は酷く愉快そうに呟いた。
「宜野座さん!首謀者の目的は厚生省ノナタワーの襲撃です!暴動は全て囮なんです!」
朱からの通信に宜野座は叫ぶ。