第18章 硫黄降る街
――祈るって、何に?
「あなたは私の王子さまになんてなってくれないのね。卑怯な人。」
「日向さんってそんなに強いんですか?」
「あ、そっか。朱ちゃん、知らないのか。泉ってね、めっちゃ強いんだよ~。狡チャンですらたまに危なかったもんね?組み手。」
「え?!狡噛さんが?!」
スパーリングを見た事のある朱は、驚きで目を見開いた。
「――あの日は俺の調子が悪かったんだよ。」
「泉の踵落とし、強烈だったもんね!――いってぇぇ!」
「うるせぇよ。」
思い切り殴られて、縢は涙目になった。
「どうしたんですか?」
暴動を鎮圧した朱は、ヘルメットを持ったままの慎也に近寄る。
「コイツらも被害者だ。」
「確かに――。犯罪に巻き込まれなければ、市民の暴徒化なんて。」
「違う。ヘルメットの方だ。今やったように時間は掛かるがいずれヘルメット着用者は全員狩り殺される。俺達がやらなくても市民がリンチに掛ける。さっきちょっと気になったんだ。ネット上のデマが攻撃的な方向に偏っている。これが槙島の情報操作の一環だとしたら――。ヤツ自身か、それともヤツの仲間か。どちらかが凄腕のクラッカーなのはもう分かってる。そうじゃなきゃ出来ない犯罪ばかりだった。今投降してヘルメットを脱いだ連中の顔を見てみろよ。ヘルメットがなけりゃ、何の犯罪も出来ないクズ共だ。ある意味、槙島の手の上で踊っていただけさ。」
慎也の説明を聞いていた縢が、声を荒げる。
「ちょ、チョイ待ち!槙島の狙いは――!」
「全てがヤツの筋書き通りだったと仮定する。今俺達がやっている事さえヤツの思うツボだとしたら――。監視官!まず優先対象として鎮圧要請のあった暴動箇所は?!」
車に乗り込んだ3人は、マップを見る。
「えっと――!ここです!」
「考えられるのは陽動だ。これが全て刑事課の人員を誘き寄せる為だけに予め暴動が激化するように仕組まれたポイントだとしたら――。」
「――?!コレ、は!まさか!」
陽動ポイントから外れた中枢に映し出されたのは、ノナタワーだった。