第18章 硫黄降る街
――『ああ、なんと呪われた因果か。』
「私と云う物質を分解して、貴方の中に再構築してほしいの。」
「目下、首都圏は未曾有の危機に直面している。シビュラシステムの導入以来、市民の暴動は可能性として廃絶されたものとして判断された為、現在の公安局には暴徒の鎮圧に備えた人員も装備も無い。余りにも平和が長すぎた。現在国境警備ドローンの装備を非殺傷兵器に換装する作業が急ピッチで進められているが、現場の状況は一刻を争う。本格的な鎮圧部隊の編成が整うまでの間、諸君ら刑事課のメンバーに市民の安全を守る最後の盾となって貰うしかない。問題のサイマティックスキャン妨害のヘルメットはドミネーターの機能を阻害する。これに対して最も有効なスタンバトンで対処して貰う。相手が大人数の場合は緊急用の電磁パルスグレネードの使用を許可する。サージ電流によりヘルメットが無力化されれば、従来通りドミネーターによる執行が可能になる。ただしグレネードの使用については、くれぐれも慎重に配慮すること!迂闊な場所で電磁パルスを発生させれば都市機能の麻痺も有り得る。」
局長の説明に、朱を始め全員が表情を険しくする。
「グレネードの数はどれぐらいでしょう?」
「多くはない。ここにいる全員に一人二個ずつで品切れだろう。3人で1チーム作って貰う。そしてエリアを分担して後は虱潰しで鎮圧だ。時間が掛かるし危険も伴うが他に方法が無い。この街の未来が掛かっている。宜しく頼む。」
禾生はそう言うと会議を打ち切った。
「あなた方と一緒に歩くのが危ない橋だって自覚はあった。」
「でも引き返す気にはなれなかった、でしょ?」
まるで人形のように完成された綺麗な顔で笑う泉を、チェ・グソンは苦笑混じりに見る。
「だって変ですもん、シビュラシステムって。あんな訳の分かんないモノに生活の全てを預けて平気な連中の方がどうかしている。――俺は外国人ですからね。この国で暮らして行けるだけでも感謝――、と言いたいところなんですが。槙島さんの言った通りですよ。当たり前の事を当たり前に出来るように――。」
「僕に取っては生まれ育った街だ。切実な問題だよ。」
立ち上がった槙島に頷けば、後ろに控える男達を見る。