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ラ・カンパネラ【PSYCHO-PASS】

第18章 硫黄降る街


――汚れた身で綺麗だなんて云わないで。



「融けてしまいそう。優しくて、切なくて、物哀しくて、愛しくて。」






コンコン――、とノックが響く。

「入りなさい。」
「失礼します、日向教授。お呼びですか?」

部屋に入れば、彼の部屋には両面に設置された本棚一杯に古書が並べられていた。
槙島はこの部屋がとても好きだった。

「昼間はすまないね。娘が迷惑を掛けたみたいで。」
「いえ。構いませんよ。可愛い妹の宥め方は心得ています。」

クスクスと笑う槙島に、日向は困ったように笑った。

「――泉を桜霜学園に進ませようと思う。」
「えぇ。彼女から聞きました。何故、とお聞きしても?」
「――泉の身を守るためだ。」

その言葉に、槙島は眉根を上げる。

「どう言う意味ですか?」
「そのままだよ。僕の関わっている仕事は危険を伴う。そろそろ僕達家族は暗殺されるだろう。」

日向はそう言えば、デスクの中からそっと1枚のメモリースティックを差し出した。

「コレ、は?」
「君を息子と信頼して預ける。泉を――、守ってやってくれ。」
「良いのですか?僕が彼女を誑かすとは思わないのですか?」

その言葉に、日向は笑った。

「それはそれだな。あの子がその道を選ぶと言うのなら、僕は別に何も言わないよ。」

――それに、と日向は言葉を続けた。

「多分あの子の気持ちを理解してやれるのは、君しかいないとも思っている。」
「――ずっと聞いてみたい事がありました。お伺いしても?」
「うん、なんだい?」

穏やかに笑う日向の顔はまるで本当の父親のようだった。

「どうして僕を――、引き取って下さったのですか?」
「――『贖罪』、かな。この世界をこんな風に歪めてしまった自分への戒めだ。ごめんね。どうしても僕は君を苦しめてしまう存在らしい。」

そっと槙島の頭を撫でる。その顔は哀しみに笑っていた。

「――それでも。僕は貴方に感謝をしたい。僕に『家族』を与えてくれて、有難う。――義父さん。」

その言葉に、日向は一瞬驚いてそして笑った。

「――今夜は嵐になる。泉を連れて別荘に行きなさい。良いね?」

その日の夜、『揺りかご事件』は起こったのだ。
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