第18章 硫黄降る街
――少しだけ、昔話をしようか。
「あなたを残らずぺろりと食べ尽くしちゃいたいの。誰にも見せたくないからしまっちゃおうね。」
~18年前~
「泉。どこにいるんだい?」
「パパ!お帰りなさい!」
飛び付いて来た泉を抱き締めれば、日向は笑った。
「――この人は?」
泉の視線の先には、一人の少年がいた。恐らく年の頃は高校生ぐらいだろうか。
「あぁ。泉、今日から君のお兄ちゃんになるんだよ。聖護くんだ。」
「初めまして、泉ちゃん。槙島聖護です。」
そう言って、槙島と名乗った少年はそっと泉に手を差し出した。
「パパ、お兄ちゃんって?」
「うん?――聖護くんをウチで引き取ったんだ。だから彼は今日から僕らの家族だよ?」
「泉ちゃん。僕のこと、お兄ちゃんって呼んでくれる?」
綺麗な人だと思った。綺麗で歪みの無い目。
泉はまるで操られるかのようにゆっくりと頷いていた。
「そう、有難う。これから仲良くしようね。」
それが私と槙島聖護の出会い。
「お兄ちゃん!聞いてよ!」
「おやおや。どうしたんだい、泉。折角の可愛い顔が台無しだよ?」
庭のハンモックが彼のお気に入りだった。学校に行かず父に勉強を教えて貰っていた彼は、それが終わると日がな1日ハンモックに揺られて読書をしていた。
「パパったら酷いの!私のこと、桜霜学園に入れるって言うのよ!」
「桜霜?あの全寮制の高等学校かい?」
「そう!私、嫌よ!あんなところ!」
「日向教授はなんでまた?」
「――私とお兄ちゃんを離したいのよ。」
そう言えば、起き上がった槙島の背中に泉は抱き付く。
その様子を見ながら、槙島はゆっくりと身体を揺らした。
「ねぇ、泉。別に君が桜霜学園に行ったって僕達は家族だよ。いつだって会えるし僕は君が呼んだならいつでも会いに行くよ。」
「――でも!」
「それに大人になって戻って来る君を待つ楽しみも増える。だから今はお父さんの言う事を聞いてあげなよ?日向教授は君が心配なんだ。」
諭すように言われて、泉は押し黙る。
その様子を日向は窓から見ていた。