第17章 甘い罠
――人は盤上の駒でしか無い。
「星空の下で語り合っちゃったりして。青春だよね、グラフィティだね!」
「聞いての通りだ、とっつぁん!回り込んで頭を押さえてくれ!それと監視官!アンタは伊藤に近付くな。さっきの二の舞になる!」
慎也の指示で、伊藤は資材倉庫へと追い込まれた。
『犯罪係数、282。刑事課登録執行官。任意執行対象です。』
その瞬間、慎也の映像が映し出される。
『セーフティを解除します。』
「――そりゃ、ドーモ!」
その瞬間、慎也と征陸のドミネーターが発動された。
「――282ってお前――。」
意識を失った伊藤の上に乗る慎也に、征陸は呆れたように言う。
「あぁ。ついブチ殺してやるとか思って。」
「自分のサイコパスを撃たれた感想はどうだ?」
「コイツがエリミネーターに変形しなくて良かったよ。」
「――ふん。そうだな。変形させちまったら泉ちゃんに怒られちまうな。」
その言葉に、慎也は力なく笑った。
「上手く追跡は撒けたようだね。」
「チョロイもんさ。ドミネーターの使えねぇ公安なんて屁でもねぇ。でもよぉ、アンタさぁ肝心なトコで一本ネジが抜けてるよなぁ。」
槙島を囲むように、男達はにじり寄る。
「それだけのお宝を一人で持ち歩いて用心とか考えなかったワケ?」
「これは啓蒙の為の道具だったんだ。人が人らしく生きる為に。家畜のような惰眠から目を覚ましてやる為に。」
「はぁ?」
槙島の言葉が理解出来ず、男達は声を上げる。
「シビュラに惑わされた人々は目の前の危機を正しく評価出来なくなった。その意味では君達もあの哀れな羊達と等しく愚かしい。」
「はッ!そうかよ!」
その瞬間、車の陰に隠れていた泉が飛び出せば男の顔を蹴飛ばす。
続いて槙島も襲って来るナイフを交わせば、男の顔を蹴り飛ばした。
「――お怪我は?!」
「無いよ。相変わらず君の蹴りは綺麗だね。」
槙島はそう言えば、男のバッドを手に取れば口の中へと突っ込む。
「――嗚呼。本当に、嘆かわしい事だ。」
鈍い音がして男が絶命するのを、泉は黙って見つめる。
「――相変わらず聖護さんの殺し方は悪趣味だわ。」
「そうかな。君だって相当だと思うけど?」
そう言った泉の手は、男の血で真っ赤に染まっていた。