第17章 甘い罠
――さぁ、祝祭をはじめよう。
「四角に囲まれた世界の方がまだしも生きやすいだなんて馬鹿げたことを云いました。」
「――短時間でこれだけエリアストレスが上昇。」
槙島は感慨深くため息を吐けば、どこかへ電話を掛ける。
その様子を泉は黙って見つめていた。
「お疲れ様。行けるね。計画に修正は必要無い。――バカだな。人が人を殺しているだけだ。大変な事なんてまだ何も起きていない。大変な事はこれから起きる。――あぁ。計画を全部伝えているのは君と泉だけなんだ。頼りにしてるよ。」
窓の外を眺めながら、槙島が言う。
その後姿に、泉は唇を噛み締めた。
「被害者の名前は藤井博子。」
「繁華街のど真ん中とはなァ。この街は一体どうなっちまったんだァ?!」
征陸が皮肉そうに言えば、朱は横の宜野座を見上げる。
「――薬局襲撃犯と同じ犯人でしょうか?」
「可能性は高い。それにしても――。これだけの人間がいたのに、案山子か?!コイツらは!」
忌々しそうに言った宜野座に、朱は静かに答える。
「目撃者の証言は似たり寄ったりです。『何が起きているのか理解出来なかった』、と。――無理も無いと思います。目の前で人が殺されるなんて、想像もつかないし思い付きもしない。そう言う出来事が起こり得る可能性なんて見当も付かないまま今日まで暮らして来た人達ばかりなんです。」
「結局誰も事件を通報せずにエリアストレス警報で異常が発覚したってんだもんなぁ。」
「見過ごしたのは人間だけじゃない。」
そう言った慎也の視線の先には、街頭スキャナーがあった。
「はぁぁ。よりにもよってサイコパススキャナーの目の前で――。じゃあ犯人の色相変化もリアルタイムでモニターされてた訳か?」
「――コレです。」
六合塚がデータを送る。
「相変わらず正常値のまんまかよ。恐れ入ったねぇ。女を殴る瞬間でさえ、たったこれだけしか変動が無い。」
「やっぱ数値そのものが偽物って可能性は?」
「無いわね。ニセのサイコパスを捏造するなんて、スパコンでも引き摺って歩かないと無理。」
「――いや。コイツは妙だ。」
「見ての通りだろう?」
慎也の言葉に、征陸が首を傾げる。