第17章 甘い罠
――眠りにつくわ、夢は見ないから。
「炎で炙り尽くして燃やし尽くして何も残らないで。僕と君とが過ごせた時間なんて、残らないで。」
「――こんな犯罪に対処出来る方法は、もうこの街には残っていない――。」
朱の呟きに答える者はいなかった。
その頃、また街中で一つの事件が起きていた。
「――昔は玄関に物理的なロックを掛けるのが当然だった。まずは他人を疑う事を前提に秩序を保っていたからだ。」
「それ、征陸さんの思い出話ですか?」
「――あぁ。あの老いぼれの受け売りさ。今は誰かを疑ったり用心したりする心構えは必要無くなった。道端で会う赤の他人は全てサイコパスの保証された安全で善良な人物。その前提でこの社会は成り立っている。あのヘルメット男のようにサイマティックスキャンを欺く方法があると知れ渡ったらパニックは避けられん。」
「――もしくは槙島聖護のような存在が発表されても…。」
朱の言葉に、宜野座は視線を横に送った。
「――宜野座さん。日向さんは――。」
「常守監視官。以前も伝えたはずだ。日向泉はあの事件については既に容疑者から外されている。」
「でも――!」
その時、丁度志恩から着信が入る。
「どうした?」
『世田谷区でエリアストレス警報なんだけど、それはそれとして――!ネットにとんでもない動画が上がってるわよ。――見て。』
映し出された映像は、路上で女性が撲殺されている衝撃的な物だった。
「――な!何だ、これは?!」
その頃、護送車の中でも同じ映像が流れる。
「――始まった。」
「コレは――、何が起きてる?!」
「槙島の犯罪――、賭けても良い。――いや。そもそもこの世界における犯罪とは何だ?」
ボソリと呟いた慎也に、征陸は怪訝そうに問う。
「狡――。何を考えている?」
「ただの犯罪じゃない。もっとこう――。何かの土台そのものを揺るがすような――。」