第17章 甘い罠
――空を見上げた、雨はまだやまない。
「だってそれを認めてしまったら、わたしまで貴方のことを想っているみたいじゃないの。」
「どう言う状況だ?コレは――。」
げんなりしたように宜野座が問う。
「どうもこうも――。事件そのものは明快極まりないんだよなァ。犯人は堂々と玄関から入って来て係員を殺し、好き放題に薬物を奪った後で平然とそこのドアから出て行った。」
「一部始終、監視カメラに映ってますよ。」
六合塚の言葉に、全員がモニターの映像を見る。
「なんだ、このヘルメット?!露骨に怪しいじゃん!」
「ただ怪しいと言うだけでセキュリティは作動しないわ。エントランスからずっとこの男のサイコパスはクリアカラーの正常値なの。スキャナにもログが残ってる。」
「――まるっきりあの槙島ってヤツと同じじゃないですかぁ?サイコパスが正常なままで人殺しが出来るなんて。」
縢は宜野座に疑問をぶつける。
「恐らくこのヘルメットが鍵だろう。サイマティックスキャンを欺く何らかの機能があったに違いない。常守監視官を出し抜いた槙島と言う男も同じような装置を使ったのかも知れない。」
「――しかしよぉ。こんなヘルメット一つでサイコパスの偽装なんて出来るモンなのか?」
「サイマティックスキャンを遮断する、と言うならまだ分かるわ。勿論その程度の事ならセキュリティは突破出来ない。スキャニング不能な人物が通過すれば、その時点で警報が鳴るもの。」
征陸の疑問に、六合塚が答える。
「問題はスキャナが侵入者のサイコパスを検出している点だ。虫も殺せない程善良な一般市民としての色相判定をな。」
「クラッキングかなぁ?」
縢が言うが、六合塚は首を振る。
「有り得ないわね。こんなに短時間で場当たり的な犯行なのに、何の痕跡も残さずデータを改ざんするなんて不可能よ。」
六合塚の言葉に、全員が口を紡ぐ。
「現行のセキュリティはサイマティックスキャンの信頼性を前提に設計されている。だからこそサイコパスに問題が無ければ問題を起こす可能性すら無い者として素通りだ。実際の傷害も窃盗もそれを犯罪行為と断定出来る機能がドローンのAIには備わっていない。皆対象のサイコパスだけを判断基準にしているからな。」
宜野座が言えば、誰も声を上げなくなる。