第16章 閑章:その参
――想い出の君は、誰より綺麗で。
「お前みたいな非常識な存在が存在しているなんて矛盾は絶対にあり得たらいけないんだ。」
日向泉と言う女は不思議な女だった。
出会いは俺が監視官になった翌年。
部下で配属されて来た。
「宜野座監視官ですね?今日から配属になりました、日向泉と申します。」
狡噛曰く、『サイボーグのような女』だった。
確かに彼女のサイコパスはパーフェクトな程にクリアカラー。
その他の数値もパーフェクト。
シビュラの判定もトリプルエー判定を叩き出したらしい。
狡噛は一切笑わない日向の事を気に入らなかったらしいが、俺はそうでも無かった。
1を言えば10を理解するし、何より煩わしくない。
同僚として接するには正直これ程までにやりやすい女はいないと思った。
「宜野座さん。これお願いします。」
「あぁ。分かった。」
「それと、慎也なんですけど――。」
「あぁ。風邪引いたらしいが、体調はどうだ?」
「寝込んでます。すみませんが、2~3日休ませます。私が代わりに出ますので。」
「分かった。」
――だが。
あれだけ嫌っていたはずの狡噛はいつの間にか日向と付き合い出した。
しかも気付けば一緒に暮らしているのだから、正直反応に困った。
「――日向。」
「はい?」
配属以来一度も笑った事の無い日向は、実は笑うと可愛いのだと狡噛がのろけていたのを思い出す。
確かに狡噛と付き合い始めて、彼女の雰囲気は格段に優しくなった気がする。
それまでの日向は、周りの世界全てを敵だと思っていた節があった。
「――いや、何でも無い。」
「?変な宜野座さん。」
クスクスと彼女が笑う。
初めて見たその笑顔に、柄にも無く言葉を失う。
「――日向。俺の事も狡噛と同じように接してくれ。」
「は?」
意味が分からず、日向が首を傾げる。
調子が狂うと思った。
恐ろしい程見た目が整ったこの女は、時々無邪気な顔を見せるから。
狡噛が堕ちたのはきっとそこなのだろうとどこか冷静に分析している自分がいた。