第14章 閑章:その壱
「意地悪ね、聖護さん。あの時もそうやって私の事を上手く宥めたわ。」
「あの頃の泉は可愛かったよ。お人形さんみたいに僕の言う事を鵜呑みにして。」
「――あら。今は可愛くないと言いたいんですか?」
横から槙島の顔を覗き込めば、彼は優しい笑みを浮かべていた。
優しくて――、残酷な笑み。
「――まさか。今の賢くなった君の方が可愛いよ。だってホラ、こうやって強かに僕の隙を狙ってる。」
反対側の泉の手を握れば、そっとその篭められた力を解くように撫でた。
「――さぁ。食べようか。折角の御飯が冷めてしまっては勿体無い。」
泉の手を解けば、槙島はそっと振り返って泉の額に口付ける。
「――はい。」
そっと閉じた瞼の裏には、もう誰の顔も映ってはいなかった。