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ラ・カンパネラ【PSYCHO-PASS】

第14章 閑章:その壱


――これはきっと幸福な物語。








「煙草をくゆらせる君の口元がセクシーでドキリとしてしまうのですよ? 」













トントンと規則正しい音に槙島は目を覚ました。

「――泉?」

横に寝ていたはずの彼女の姿が無い事に気付けば、槙島は起き上がる。
何も身に纏っていない素肌に少しだけブルリと震えれば近くにあったガウンを羽織る。
全てが統制されたこの世界に在って、彼は機械に統治されるのを酷く嫌がった。
その為、彼の部屋はこの時代にそぐわぬほど酷く人間的だった。

「あら。槙島先生。お早うございます。」
「うん。いつから起きてたの?」
「30分ぐらい前です。丁度出来たところですけど、お腹は空いてますか?」
「あぁ。頂こうかな。」

カチッとコンロを止めた泉を後ろから抱き締めれば、彼女はくすぐったそうに身を捩る。

「先生。危ないわ。離れて下さい。」
「――いつまでその呼び方をするのかな?」

どこか拗ねたような槙島の問いに、#MAME1#は困ったように笑った。

「――聖護、さん。」
「『さん』はいらないと昔から言ってるのにね。懐かしいよ、その呼び方。」
「父が年上の人は敬いなさいと言っていたわ。」
「――日向教授らしいね。」

槙島は泉の手から鍋を取れば、テーブルへと運ぶ。
それを見ながら、泉はその後姿に慎也を重ねてしまった。

「――バカ。」
「泉?冷めてしまうよ。」
「――はい。」

目を閉じればまだ彼の姿が浮かんでしまいそうで、泉はそれを拒むように槙島の背中に抱き付いた。

「どうしたんだい?珍しく甘えただね。」
「――何でも無いです。」
「昔から泉は嘘が下手だね。確か日向教授に怒られた時も同じように僕に抱き付いて来たっけ?」

クスクスとあやすように槙島は前を向いたまま、ゆっくりと身体を揺らす。
その振動は昔から泉の感情を落ち着かせるには最適で、泉は笑ってしまう。
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