第13章 深淵からの招待
――今なら分かるよ、君の気持ちが。
「本当は、傍に居てほしいの、なんて。云うとでも思った?(云うもんか、)」
「あぁ。結局は俺が間違っていたのかも知れん。今の時代を認めて諦めがついた頃合に俺の犯罪係数は横ばいになった。まぁ些か以上に手遅れだったが。で、お前はどうなんだ?サイコパス。ちゃんとクリアカラーで維持出来てるか?」
その言葉は、どこか優しかった。
「アンタに心配される筋合いじゃない。今更父親面しようって言うのか?」
忌々しそうに言う宜野座に、征陸は首を振る。
「出世を控えた上司を部下が気遣って何が悪い?お前がさっき俺に言った通りだ。この仕事に疑問があるなら。何か疑わしいと思うような事を抱え込んだら気を付けろ。そこから先には俺が嵌まったのと同じ落とし穴が待ち構えているのかも知れん。」
その言葉に、宜野座は答えない。
「――あぁ、そうだ。一つだけ教えてくれ。泉ちゃんはどうなった?あの子の処遇は?やっぱり重要参考人として連行するのか?」
征陸の問いに、宜野座は視線を反らす。
「――日向泉は、本件には無関係と断定された。」
「何?どう言う意味だ?」
「上層部の決定だ。日向泉は本件には一切関係無し。一般人に戻った以上、我々が彼女と接触する事自体が許されていない。」
「――お前は、それで納得したのか?」
その問いに、宜野座は何も答えない。
「――狡には?」
「俺から伝える。お前達は何も言うな。」
それ以上、会話は続かなかった。
『お掛けになった番号は現在使われておりません。』
慎也は何度も泉の携帯に掛けるが、流れて来るアナウンスは非情な物だった。
「チィ!何がどうなってやがる。」
慎也はそう言えば、泉の部屋を開ける。
綺麗に整理整頓された部屋の端に、慎也は鍵が差し込んだままの引き出しを見つける。
誘われるままに引き出しを開ければ、そこには写真が挟まった手帳が入っていた。
「――これ、は。泉と槙島?!」
挟まっていた写真は幼い頃の両親と泉、そして若い頃の槙島が映っていた。
「どう言う事だ?!」
手帳をパラパラと捲れば、もう一枚の写真が落ちる。
「――揺りかご、事件?」
その写真には赤い字で『揺りかご事件』と書かれていた。