第13章 深淵からの招待
――そんなに嫌ならば閉じ込めてしまえば良いのに。
「君の姿ばかりが焼き付いて離れないよ、焼け焦げて落ちちゃうよ。」
「お前が俺を呼び出すなんて、こりゃあ明日は雪かな?」
「明日の降水確率は昼夜共にゼロだ。」
「昔からある言い回しだろうよ、全く。――で?何があった?」
宜野座に呼び出された征陸は、横の宜野座を見る。
「常守監視官の事でいくつか質問を。」
「お嬢ちゃんがどうした?」
「何故、アイツの色相は濁らないんだろう。どんなストレスケアを?」
「それを俺に聞くかね?」
宜野座の問いに、征陸は苦笑する。
「俺よりは親しく接してるだろう?」
「分からんよ。まぁ一つハッキリ言えるのは、お嬢ちゃんは自分の犯罪係数を全く恐れちゃいないって事さ。あの子は――、何て言うかその物事を良しとしている。世の中を許して、認めて、受け入れている。それでいて危ない橋を渡るのも厭わないんだからただ流れに身を任せている訳でも無い。刑事って仕事の意味と価値を疑う事無く信じてるんだな。」
征陸の説明に、宜野座は疑問をぶつける。
「――アンタの場合は違ったって言うのか?」
「俺か?――そうだな。こんな俺でも昔はあの子みたいに正義とか言う物を信じていたような気がする。」
「――フン。」
その言葉に、珍しく宜野座が口角を上げる。
「ところがある日いきなり言葉を喋る銃を渡されて、これからはソイツの言いなりになって人を撃ち、捕まえるなり殺すなりしろと命令された。腹が立ったよ。こんなやり方は俺が信じた刑事のやり方じゃない。そう思えば思う程、サイコパスも雲って行った。」
「そこまで疑問があったならどうして刑事を辞めなかった?アンタはそんな不本意な生き方の為に俺を――、母さんを巻き添えにしたのか?ふざけやがって!今更どのツラ下げて泣き言をほざくんだ?!」
どこか泣きそうにも聞こえる声に、征陸は苦笑する。
「――全くだよ。嫌だ嫌だと言いながら結局俺は今でも刑事のままだ。」
「アンタはシビュラを否定し、シビュラはアンタを否定した。そして新しい秩序が生まれ、この国だけが立ち直った。」