第13章 深淵からの招待
――涙の味はお嫌いですか?
「じわりと炙られていくようなこの気持ちが、嫉妬だと云うのなら。」
「――大丈夫。色相カーブは規定値以内。犯罪係数は――、すごいわ!一度上昇したポイントがもう回復の兆しを見せている。」
「常守監視官――。」
「――ね?平気だったでしょ?」
「君は――、そうまでして――。」
「もう怪我は大丈夫なの?」
姿を現した慎也に、六合塚が問う。
「これ以上入院させるなら病室に火を点けるって医者を脅した。」
「はッ!流石、狡チャン。」
縢が茶化すように言えば、慎也は言葉を遮った。
「嘘だよ。説得した。それより常守監視官はどうなんだ?」
「医務室でメンタルケアのセッション中。でも志恩の診断ではすぐに持ち直すだろうって。」
「可愛い顔してて根性座ってるって言うか。正直ビビッたわ。アレでサイコパスがレッドゾーン行かないってんだから。」
「何かあったらどうするつもりだったんだ?!」
「心配してたのは貴方だけじゃないわ。でもね、危険を侵しただけの成果は上がってるわよ。」
怒ったように言う慎也に、六合塚はモニターを出してやる。
「――これが!」
「槙島聖護。早速桜霜学園にも問い合わせたけどビンゴ。教職員も生徒も揃ってこの男が美術科講師の柴田幸盛だと証言している。これだけでも王陵璃華子の事件について重要参考人として引っ張れる。」
映像に映った槙島の顔を、慎也は睨むように見る。
「今もね街中のカメラの録画記録に片っ端から検索掛けてるよ。で、早速ヒットしたのがさぁなんと菅原昭子のマンションのエントランス!ホラ、覚えてる?スプーキーブーギー!タリスマン事件の犠牲者の!」
「フェイスレコグミションの手配も済ませてる。次にコイツが動きを起こせば、即座にこっちに通報が届くわ。」
「常守は――。アイツはもう一端の刑事(デカ)だ。」
その言葉に、六合塚は言いにくそうに呟く。
「それと――。狡噛には辛いかも知れないけど。メモリースクープの中には彼女の姿もあったわ。」
「――泉!」
そこには冷たくこちらを見下ろす、泉の姿があった。