第13章 深淵からの招待
――愛してるだなんてそんな嘘、望んでなんかいないよ。
「君と僕とを隔てる全てが許せないんだ。たとえばこの体とか、空気とか。」
「一つだけ――、ある意味では嬉しいと思える事もあります。槙島聖護は実在した。もう誰も狡噛さんの事を疑いません。私達、これでようやく一つの目標を一緒に追いかけられるようになりました。」
その言葉に、慎也は何も答えなかった。
誰もいなくなった部屋で、慎也はカラカラと回るファンを見つめる。
「――『愛してごめんね』、か。」
あの時、確かに泉は自分に向かってそう言った。
彼女が触れた唇を無意識に触れば、慎也は舌打ちをした。
いつも側にあったはずの温もりが今はこんなに遠いなんて。
「――常守が、モンタージュを?!」
「そう。メモリースクープだよ。記憶にある視覚情報を脳波から直接読み取って映像化するって言う――。朱ちゃん、アレで槙島聖護の姿を再現するつもりらしくて。今んとこ槙島ってヤツの姿をハッキリ見たことあるのは朱ちゃんだけだから――。」
見舞いがてら報告に来た縢に、慎也は声を荒げる。
「記憶の強制的な追体験だぞ?!よりにもよって友人を目の前で殺された経験を!」
「分かってるよ!だから皆も止めたんだ!いくら朱ちゃんでもサイコパスが無事で済むはずがない。」
「じゃ、なんで?!」
声を荒げた慎也に、縢も声を荒げる。
「――次は絶対に仕留めるってさ。槙島を。だとすれば?少なくとも狡チャンには彼女のコトをとやかく言う権利はないかも?」
「――ッッ!」
苦々しそうな顔をした慎也に、縢は尚も続ける。
「それに――。泉のコトだって――。」
「それ以上言うな!泉の事は俺がどうにかする。アレは俺の女だ!」
有無を言わせないとばかりに叫んだ慎也に、縢は口を噤んだ。
その頃鳴り響く慎也からの着信を、朱は取らずに切ってしまう。
「――狡噛か?」
「はい。多分縢くん辺りがチクったんじゃないかと。」
宜野座の問いに、朱は苦笑しながら答える。
「話さなくて良いのか?」
「必要無いです。私を止めるつもりなんですよ。自分は無茶ばっかりするくせに。」
「――俺も反対だ。危険すぎる。ただでさえ君のサイコパスはダメージを受けている。最悪の場合は犯罪係数の悪化だって――。」
宜野座が止めるが、朱は怯まない。