第13章 深淵からの招待
――どうぞ罵って、私は少しも悔やまない。
「僕が存在していた意味はありましたか? 誰かの中に残れますか?」
『闇の奥(ジョセフ・コンラッド)』と言う本を慎也は読み耽っていた。
「――失礼します。読書ですか?」
花束を持った朱が入ってくれば、慎也は視線をそちらに向ける。
「あぁ。――わざわざすまない。」
「いえ。どうせ私も少し休めって言われてますし。」
「――葬儀の方は?」
心配そうに問えば、朱は曖昧に笑った。
「一一昨日に。」
朱は葬儀の様子を思い出せば唇を噛み締めた。
「そうか。」
「――すみません。」
「何故謝る?」
頭を下げた朱に、慎也は首を傾げた。
「槙島聖護を取り逃がしました。――日向さんも引き止められませんでした。」
「アンタの責任じゃない。可笑しくなったのはドミネーターだ。そうなんだろ?」
「銃そのものには何の欠陥も無かったそうです。今、宜野座さんが上に掛け合って調べてくれています。」
その言葉に、慎也は宙を仰ぐ。
「一度も尻尾を出さなかったヤツだ。何かカラクリがあるのかも知れない。ドミネーターばかりに頼って来た俺達をまんまと出し抜く為の秘策が――。」
「――いつも通りですね。狡噛さん。」
「アンタも思ったより立ち直りが早い。」
「落ち込んでばかりじゃいられません。槙島聖護を捕まえないと。友達の敵ですもんね。私に取っても、狡噛さんに取っても――。」
「そうだな。」
そう答えた慎也に、朱は笑う。
「何だか安心しました。ではお大事に――。」
病室を出ようとした朱は、ギュッと拳を握る。
「――狡噛さん。日向さんを――、信じていますか?」
「どう言う意味だ?」
訝しそうな慎也に、朱は決意したように言う。
「――槙島が言っていました。日向さんは自分の味方だと。――彼女も自分の意志で槙島に付いて行ったとそう認識しています。」
「なん、だと?」
知らなかった事実に、慎也は声を荒げる。
「――ごめんなさい。言うべきか迷ったんですけど。――日向さん、狡噛さんのこと。」
「――それ以上、言うな。例えアンタの言う事が事実だったとしても、悪いが俺は泉の口から全てを聞くまでは何も信じない。」
頑なな慎也の態度に、朱はそれ以上の言葉を止める。