第13章 深淵からの招待
――手を伸ばして、愛を乞う。
「あぁ、それでも、それでも、あなたは僕を愛おしんでくれたのですね。」
「――藤間幸三郎は?どうなったんです?」
「行方不明――、と公式には発表されている訳だが。私もそれ以外のコメントをここで述べるつもりはない。ともあれ重要なのは彼の犯罪による犠牲者が二度と再び現れる事は無かった、と言う事実のみだ。――彼はただ、消えたのだ。シビュラシステムの盲点を暴く事もその信頼性を揺るがす事も無く、『消えて』いなくなった。」
トントン、と静かな部屋に音が鳴る。
その指を宜野座はジッと見つめていた。
「君達はシステムの末端だ。そして人々は末端を通してのみシステムを認識し理解する。よってシステムの信頼性とは如何に末端が適正に厳格に機能をしているかで判断をされる。君達がドミネーターを疑うならそれはやがて全ての市民がこの社会の秩序を疑う発端にもなり兼ねない。――分かるかね?」
「――提出した報告書には不備があったようです。」
宜野座の答えに、局長は満足そうに頷く。
「結構だ。明朝までに再提出したまえ。当然君の部下達にも納得行く説明を用意する必要があるだろうが。」
「――お任せ下さい。」
「よろしい。宜野座くん。やはり君は私が見込んだ通りの人材だ。――槙島聖護の身柄を確保しろ。一日でも早くこの社会から隔離するんだ。――但し、殺すな。即時量刑、即時処刑はシビュラ在っての制度だ。」
「――了解しました。」
「この男を捕らえ、本局にまで連行すれば良い。後は何も気にするな。槙島聖護は二度と社会を脅かす事など無くなる。――藤間幸三郎と同様に、な。」
その言葉に、宜野座はギュッと拳を握り締めた。
「――あぁ、それから。繰り返しておくが、日向泉は放っておけ。連行は認めない。また――、君達と彼女の接触も禁止だ。」
「――何故、ですか。彼女は――、我々の友人です。」
「宜野座くん。――命令、だ。狡噛執行官にも良く伝えておくように。」
有無を言わせぬその言葉に、宜野座は唇を噛んだ。