第12章 Devil's crossroad
――今日も優しい声で、救いを求めてる。
「君にこんなに嫌われてるアイツが羨ましいよ。だってそれだけ、思われてる。」
帰りの車の中で、宜野座は横の泉を見る。
「――何?」
視線を感じた泉は、問われるより先に問う。
「何故、先程俺を止めた?」
「あれ以上の問答は無駄だと判断したからよ。あの子の目、見たでしょ?」
「――あぁ。」
「まだ社会復帰出来るって信じてるわ。信じてるうちは執行官になんてなる訳ないでしょう?」
どこか嘲笑うように言った泉の表情は清清しい程、澄んでいた。
『職業適性考査は個人の能力を最大限に生かし、安定した生活を保障します。人間はより人間らしい暮らしへ。芸術と自然。そして平和を誰もが享受出来る世界を実現したのです!』
映像を寝転がったまま見ながら、六合塚はため息を吐いた。
『貸シ出シ、貸シ出シ。』
「――すみません。」
『六合塚サン、デスネ。貸シ出シ品、購入品ガ届イテイマス。リストヲ、チェックシテ下サイ。』
そう言って渡されたリストを見れば、六合塚は表情を変える。
「すみません。」
『ハイ?』
「無いんですけど。購入申請したアーニー・ボールの弦。」
『購入許可ガ降リテイマセン。』
「どうして?!もう何度も申請してるんです!」
『再度購入申請ヲシテ下サイ。』
「ねぇ!もう半年以上もギター弾いてないの!見てよ――。指先がもうこんなに柔らかくなってる。ダメなのよ、こんなんじゃ!」
叫ぶように言う六合塚に、アナウンスが流れる。
『色相が変化しました。ダークイエローです。』
「――?!」
すぐに施設の人間が六合塚の元へとやって来る。
「大丈夫よ。落ち着いて。最近は色相も随分安定して来てるし、すぐ退院出来るわよ。そしたら音楽でも何でも好きにやれば良いじゃない。今が大事な時よ。辛抱して。サプリ置いて行くわね。」
諭すような声を、六合塚は意識を失いながら聞いていた。