第11章 聖者の晩餐
――許されるのなら、この目と耳を奪い去って欲しいのに。
「記憶を取り出してポイ捨て出来たらいいのに。そしたらアンタのことなんて全部全部捨ててやるわ。好きなのに気持ちが悪いだなんて、まともな君には理解不能なんだろうけどさ」
「やっぱり――。」
「はは。僕はね、人は自らの意志に基づいて行動した時のみ価値を持つと思っている。だから様々な人間に秘めたる意志を問い質し、その行いを観察して来た。」
「良い気にならないで!貴方はただの犯罪者よ!」
叫ぶように言った朱に、声を発したのは槙島ではなく泉だった。
「――朱ちゃんの言う犯罪者って何?」
「え?」
「貴方が手にしているその銃、ドミネーターが司るシビュラシステムが決めるの?」
その瞬間、朱は泉にドミネーターを向ける。
『犯罪係数、アンダー50。執行対象ではありません。トリガーをロックします。』
それは揺るがない現実だった。
「サイマティックスキャンで読み取った生体力場を解析し、人の心の在り方を解き明かす。科学の英知は遂に魂の秘密を暴くに至り、この社会は激変した。だがその判定には人の意志が介在しない。君達は一体何を基準に善と悪を選り分けているんだろうね?」
「――貴方、一体?」
「僕は人の魂の輝きが見たい。それが本当に尊いものだと確かめたい。だが己の意志を問うこともせず、ただシビュラの神託のままに生きる人間達に果たして価値はあるんだろうか?」
そこまで言えば、槙島は手に持っていた猟銃を朱のいる場所へ投げ落とす。
「折角だ。君にも問うて見るとしよう。刑事としての判断と行動を。」
そう言えば、槙島はゆきの手首に手錠を掛けて手すりに繋ぐ。
「な、何をするつもり?!」
「今からこの女、舩原ゆきを殺して見せよう。君の目の前で。」
朱は息を呑んでドミネーターを構えるが、返って来る答えは同じだった。
『犯罪係数、48。執行対象ではありません。トリガーをロックします。』
「止めたければそんな役に立たない鉄屑ではなく、今あげた銃を拾って使うと良い。引き金を引けば弾は出る。」
「で、出来る訳無い!だ、だって!貴方は――!」
「善良な市民だから、かね?シビュラがそう判定したから?」
その瞬間、取り出したナイフでゆきの背中を斬り付ける。