第11章 聖者の晩餐
――僕らはいつもそうだったんだ。
「好きなのに気持ちが悪いだなんて、まともな君には理解不能なんだろうけどさ。」
『犯罪係数、79。執行対象ではありません。トリガーをロックします。』
「あ、朱――!」
泣きそうな声で朱を呼ぶが、朱はドミネーターの数値に目を見開いた。
「待ってて、ゆき!今助けるから!日向さんも!」
「――助ける、ね。彼女はともかく泉も?言っておくけれど、彼女は僕の味方だよ。」
「え?!」
槙島の言葉に、朱は呆然と立ち尽くす。
「君の顔は知っている。公安局の常守朱監視官、だね?」
泉は黙ったまま、朱を見据えていた。
「貴方がゆきを巻き込んだのね?!良くも――!」
「――僕は槙島聖護。」
「なっ?!――『マキシマ』?!」
自分の名前に反応した朱に、槙島は笑う。
「成程。そこで驚くのか。流石、公安局だ。尻尾ぐらいは掴まれていたと言う訳か。泉のせいかい?」
後ろを振り返って言われ、泉は困ったように言った。
「だって――。槙島先生は隠れる気も無かったのでしょう?」
「日向さん、どうして――!」
信じられないとばかりに言う朱に、泉は口を開く。
「どうして、なんて言ったって分からないわ。私には私の理由があるのよ、朱ちゃん。」
「そんな――!狡噛さんを騙していたんですか?!」
その質問には答えない泉に、朱は頭を切り替えて槙島を見る。
「貴方には複数の犯罪について重大な嫌疑が掛かっています。市民憲章に基づいて同行を要請します。」
「話があるならこの場で済まそう。お互い多忙な身の上だろう?」
「逃げられると思ってるの?」
その言葉に、槙島は楽しそうに笑う。
「君こそ。泉に勝てるとでも?彼女は僕が命じたら今この場で君を殺すよ?」
「ッッ!」
息を呑んだ朱に、泉は顔色を変えない。
「君は応援が来るまでの時間稼ぎの為にもここで僕との会話を弾ませるべきじゃないかね?熟練の刑事ならそう判断するはずだが?――君が言う複数の犯罪とはどれのことだろう?御堂将剛?それとも王陵璃華子?」