第11章 聖者の晩餐
――翼を下さい、君の翼を。
「君が馬鹿なのは知っていたけど、まさかそんなに深刻な病状だとは思わなかったな。」
走りながら辺りを伺っていれば、不意に泉が後ろから現れる。
「――泉!お前、一体!」
「シッ!聞いて。回り込んで狩るわよ。私が囮になるから慎也が撃ちなさい。」
「お前――。」
その言葉に、泉はどこか哀しそうに笑う。
「――愛してごめんね。」
それだけ言えば、泉は慎也に軽く口付けて再び走り出した。
「――チェックメイトは近いぞ、執行官。」
足音がやがて響き始めた。
『犯罪係数、328。執行対象です。』
その瞬間、泉宮寺の身体がバラバラに破裂した。
「――凄い。やったよ!あたし達、勝ったよ!」
囮になっていたゆきが、慎也に近付く。
だが慎也は怪我のせいで倒れ込んだ。
「慎也!――撃たれてたのね。」
泉も走り寄れば、慎也の応急処置を始める。
「――スマン。無茶をさせたな。ここを出たらすぐにセラピーを受けろ。アンタは見るべきじゃないものを見すぎちまってる。」
「良いよ。狡噛さん、素敵だったもん。あたしも潜在犯になっちゃいたいぐらいだよ?」
「――本当、あの子の友達ね。」
皮肉にも聞こえる言葉に、慎也は泉を見る。
けれども見えるはずだった彼女の顔はおぼろげに視界から歪んで行く。
「バカを――!泉――。」
「――慎也。もう無理しないで。眠りなさい。」
泉は止血をすると、慎也の首に注射を打ち込む。
薄れ行く意識の中で、慎也はゆきの悲鳴を聞く。
何とか開いた視線の先にいたのは、焦がれて焦がれたはずの男の姿だった。
「君と語り明かしたいのは山々だが、今は具合が悪そうだね。いずれまた会おう。――行くよ、泉。」
「――な、に?!」
視界の端で泉の哀しそうな顔が見える。
彼女はやがて男の後姿を追って行った。