第11章 聖者の晩餐
――混沌を望むもの、抗うもの、
「やさしさであたしを憂いているつもりなら、それは笑えない程に勘違いだわ。」
「――残念ながら時間切れです。妨害電波が破られました。間もなく公安局の本体が駆け付けるでしょう。」
槙島の声に、泉宮寺は問う。
「どういうつもりかね、槙島くん。彼女は私を撃って来たが?」
その問いに、槙島はニヤリと口角を上げる。
『あぁ。すみません。僕は彼女のおねだりには昔から逆らえないのでね。どうやら貴方の事がお嫌いらしい。』
「――ラヴクラフトがヤラれた。撃たれて壊されたんだ。ヤツはとうとう撃ち返して来た。」
『――泉宮寺さん?』
「昔は発展途上国のインフラ設備に関わる工事が多くてね。危険な現場ほど金になった。紛争突発的で状況予測と危機管理には限界があった。現地でゲリラの襲撃に遭った事がある。もう7~80年は前かな。あの時も隣にいた同僚が撃たれたんだ。それまで泣いたり叫んだりしていた友人が次の瞬間には肉の塊になっていた。私は飛び散った血飛沫を頭から浴びてね。彼の匂いが私の全身にベットリとこびり付いて――。勘違いしないで欲しいが、これは良い思い出の話だ。あの時ほど、命を、生きていると言う実感を痛烈に感じた事は無い。それを今、私は再び味わっている。この機械仕掛けの心臓に熱い血の滾りが蘇っている。ここで逃げるなんてそれは残酷と言うものだよ。」
その言葉に、槙島は目を閉じる。
『――ここから先はゲームでは済みませんよ。』
「その通りだ。これまでハンターとして多くの獲物を仕留めて来た。しかし今はデュエリストとしてあの男と対峙したい。槙島くん。君とてまさかここで私が尻尾を巻く様を見たくて妙な小細工を弄した訳でもあるまい?」
『仰せの通りです。貴方の命の輝き、最後まで見届けさせて貰います。――それから。どうか彼女だけは見逃してやって下さいね。あの子はここで死ぬべきではない。』
そう言った槙島は、どこか楽しそうだった。