第10章 メトセラの遊戯
――目を反らすことさえ許さない貴方。
「抱きしめてるのに、消えてしまいそう。君はいつまでも僕を見ていないから。」
「――とんでもないヤツだよ。」
『狐と言えどイヌ科の獣です。或いは狼の眷属かも知れない。』
「槙島くん。今回のゲームについてさては何か私の知らない趣向まで組み込んでいるのかね?」
その問いに、槙島はニヤリと笑う。
「人は恐怖と対面した時、自らの魂を試される。何を求め何を為すべくして生まれて来たかその本性が明らかになる。」
『私をからかっているつもりかね?』
「あの狡噛と言う男だけではない。貴方にも興味があるんです、泉宮寺さん。不足の事態、予期せぬ展開を前にして貴方もまた本当の自分と直面する事になるでしょう。そんなスリルと興奮を貴方は求めていたはずだ。」
『――フン。いかにも。君のそう言う人を喰ったところ、私も嫌いではないよ。』
それだけ言えば、泉宮寺は再び狩りへと動き出した。
「――さて。狡噛慎也。君はこの問いの意味を理解してくれるかな?」
楽しそうに呟いた槙島を見ながら、泉は声を掛けた。
「――槙島先生。」
「分かっているよ、君の言いたい事は。良いよ、行っておいで。」
先程とは人が変わったように優しく言う槙島に、泉は何とも言えない感情になる。
「――宜しいのですか?私が慎也を助けると言う事は、泉宮寺さんが負けると言う事です。」
「別に構わないよ。それはそれで、彼はそれまでの男だったと言うだけのこと。運命の女神が狡噛慎也に微笑んだだけの話だ。」
「――私はどうしても彼を死なせたくないんです。」
泣きそうな顔で訴える泉を、槙島は優しく抱き締めた。
「――泣きそうな顔が君は世界一似合うね、泉。タイムリミットまでには戻っておいで。良いね?」
そう言えば、槙島はそっと彼女の耳にピアスを嵌める。
ピアスの嵌まった音に、泉はその場を走り出した。
「――さぁ。楽しくなりそうだ。」
その声を後ろで聞きながら、泉は階段を駆け下りる。
「慎也――!無事でいて!」
そう言った泉の手には拳銃が握られていた。