第1章 犯罪係数
――雨は、まだ止まない。
「泣き出した空に文句を云った。「ずるいよ、先に泣いちゃうなんて」」
女性と対峙している慎也を朱は必死に止める。
『対象の脅威判定が更新されました。執行モード、リーサル・エリミネーター。慎重に照準を定め対象を排除して下さい。』
「そんな――。」
ドミネーターの非情な声が朱を襲う。
立ち尽くす朱の後ろにカツンとハイヒールの音が響いた。
「――対象は既に排除対象とシビュラに判定された。常守監視官、どうするの?」
「日向監視官!私は――!」
「私は監視官として慎也に対象の排除を命じているわ。」
その言葉に反応するように、朱はドミネーターを慎也に向けて発砲した。
「やめてぇぇぇぇ!」
「――慎也!」
そのままその場に倒れ込んだ慎也を、泉は抱き締める。
「もうやめて!そのライターを捨てて。でないとこの銃が貴方を殺しちゃう!お願い!貴方を助けたいの!」
『対象の脅威判定が更新されました。執行モード、ノンリーサル・パラライザー。落ち着いて照準を定め対象を制圧して下さい。』
その声が聞こえた瞬間、目の前の女性が倒れる。
振り返ればそこにはドミネーターを撃った宜野座がいた。
「常守監視官。君の状況判断については報告書できっちり説明してもらう。」
それを見ていた征陸はぼやくように呟いた。
「こりゃあ、とんでもない新人が来ちまったな。――なぁ、泉ちゃん。」
慎也の頭を膝に乗せて抱き締めている泉に、征陸は問う。
けれども彼女は何も答えず、その考えは読めないままだった。
「もう大丈夫よ。いい加減、寝たら?」
ずっとつきっきりでいる泉に、志恩は心配そうに言う。
「うん――。でも目が覚めた時に側にいたいから。」
「まぁったく。慎也くんも幸せ者ね。こんな美人につきっきりで看病して貰えて。」
「――だって慎也が撃たれたのは私のせいだから。」
寝顔の慎也の頬を撫でながら泉が言う。
「――常守朱、監視官だっけ。どうなの、彼女?」
「間違ってはないわ。でも――、甘すぎる。いつかその甘さが身を滅ぼすわ。」
きっぱりと言い放った彼女の目は、何かを含んでいた。