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ラ・カンパネラ【PSYCHO-PASS】

第9章 楽園の果実


――過去を望んだのは、彼だったのか。




「僕はいつだって君に尽くしてきたつもり。でもそれは、僕のためだ。」




「飲み物は珈琲で良いかな?」

雑賀が問えば、3人は頷く。
けれども慎也の苛立ちは泉へと向いていた。

「――慎也。大人気ない。家に帰るまで我慢しなさい。」
「誰のせいだ!お前、雑賀教授と知り合いだったのか?」
「初対面よ。」

あしらわれるように言われて、慎也は思い切り舌打ちをする。
その様子を朱はハラハラと見守っていた。

「――日向教授には生前お世話になったんだよ。失礼だが、ご一家はあの『揺りかご事件』で全て――。」

言葉を濁す雑賀に、泉は苦笑混じりに言う。

「お察しの通り、私以外は全て殺されました。雑賀教授は『揺りかご事件』の全容をご存知で?」
「いや。緘口令が布かれているのは知ってる。公安局でも隠滅されているのもね。ただ学者の間では少し、ね。それでも詳しくは知らない。君は唯一の生き残りと言う訳か?」
「――そう、なるのでしょうね。」
「そうなるとは?」

雑賀が泉を見れば、彼女は視線を下に落とした。

「覚えていないんです、何も。」
「――辛い記憶だろうからね。思い出さない方が幸せな事もある。ところで。横の男が怖い顔をしているが。君と狡噛はもしかしなくても。」
「えぇ。恋人です。慎也。後で全部説明するから。今は用事を。教授。少し失礼してお庭を拝見させて頂いても?慎也。私、先に帰ってるわ。」

頷いた雑賀を見れば、泉は席を立った。
その後姿を見送っていた雑賀に、慎也は声を掛ける。

「――雑賀教授。『揺りかご事件』とは?」

慎也の問いに思わず、朱も息を呑む。

「――17年前。ある大学教授の一家が失踪した。恐らく公安局の事件簿には失踪事件で片が付けられてるはずだ。だが俺達学者の間では、通称『揺りかご事件』と呼ばれている。――失踪してから半年後、教授夫婦が遺体で見付かった。修道院の揺りかごの中にバラバラ遺体としてね。」
「それで『揺りかご事件』ですか。しかしなんで隠蔽を?」
「余りにも不可思議で公に出来ない事実が多すぎたからさ。」

雑賀の目が鋭く光った。
慎也は部屋を出て行った泉を追いかけるように飛び出した。
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