第9章 楽園の果実
――神様。私がお嫌いですか?
「ねえあの子を君から奪ったらあの子はどんな顔をするんだろうね。泣くのかな、そして僕に縋ってくれる?」
朱が迎えに行けば、慎也の横には泉がいた。
「日向さん?!」
「こんにちは。朱ちゃん。私も同行して良いかしら?」
「良いですけど。それより一体いつお戻りに?!ってかどこに行ってたんですか?!」
朱が矢継ぎ早に問えば、二人は後部座席に身を沈める。
「昨夜、遅くに帰って来やがったんだが。どこに行ってたか言いやしねぇ。」
「慎也。口悪いわよ。」
「お前が強情だからだ。」
不機嫌丸出しの慎也に、朱は困ったようにバックミラーで二人を見る。
「――悪いな。」
「あ、いえ。気にしないで下さい。私も興味があるので。」
走り始めた車の中では、険悪な空気が流れる。
そんな中、泉は外を眺めていた。
朱は空気を変えるようにテレビを点ける。
そこにはサイボーグ化のパイオニアである泉宮寺が映っていた。
その姿に、泉の目が鋭くなったのを慎也は横目で見ていた。
「――狡噛さんはどう思います?サイボーグ化の不老不死って。」
「興味無いな。潜在犯の人生は末永く続けたくなるモンじゃない。」
「でも――。いつかもっと社会制度が発達すれば潜在犯の権利だって改善されるかも。」
「――アンタのサイコパス、濁りにくい訳だ。」
その言葉に、朱はムッとしたような表情を見せる。
そんな二人のやり取りを余所に、泉はテレビの画面に視線を向けていた。
そしてやがて車は山奥に聳え立つ一件の屋敷に到達する。
「――どうも。狡噛です。」
『あぁ。ちょっと待って。』
慎也がインターホンを鳴らせば、中から返事が帰って来る。
「環境ホロをほとんど使ってませんね?」
朱が珍しそうに言う。
「――そう言うのが嫌いな人なんだ。お久し振りです、雑賀教授!」
扉が開けば、3人が彼の元に行く。
「教授は止してくれよ。やめて何年経つと思ってんだ?――そっちのお嬢さん方は?」
「初めまして。公安局の監視官・常守朱です。」
「同じく日向泉と申します。」
「――日向?アンタ、もしかして日向教授の娘さんかい?」
その言葉に、泉は哀しそうに笑った。