第9章 楽園の果実
――悲劇は突然に。
「ずっと見てたよ。ずっとずっと、好きだったんだよ。君があいつを見てた時から。」
『何故、同じ学園の生徒ばかりを素材に選んだのかな?』
『全寮制女子学校と言うこの学園の教育方針を槙島先生はどうお考えですか?』
誰もいなくなった教室で、慎也と朱はあの録音を聞いていた。
「――あと一歩でしたね。王陵璃華子は既に指名手配されています。時間の問題です。」
「――消えるな。」
慎也が呟いた瞬間、後ろから入って来た宜野座に肩を叩かれる。
「ちょっと来い。話がある。」
「何だよ?文句があるならハッキリ言え。」
なかなか喋り出さない宜野座に、慎也は痺れを切らす。
「――すまなかった。感情的になっていたのは俺の方だった。ヤツはお前らの妄想では無かった。」
「気にするな。執行官の言う事を全て真に受けていたら監視官は務まらない。そういうもんだろ?」
「――しかし。」
「獲物の尻尾が鼻先を掠めたみたいな感じだ。俺は今久し振りにとても良い気分だよ、ギノ。」
ニヤリと笑った慎也に、宜野座は頷く。
「――泉は?」
「分からない。携帯も繋がらないし何か見つけた節はあったか?」
「分からん。――そう言えば。結局アイツはどこから王陵璃華子の情報を得た?芸術に詳しかった訳でも無いだろう?」
その質問に、慎也は黙ったまま考え込んだ。
「――槙島の旦那。さっきから気になってたんですが、この可愛いお嬢さんは?」
チェ・グソンが槙島の腕の中にいる泉に視線をやる。
「あぁ。紹介が遅れたね。彼女の名前は日向泉。僕の可愛い教え子だよ。」
「――槙島先生。お願いがあります。」
槙島を振り返れば、泉が懇願するように言う。
その顔に、槙島は満足そうに笑った。
「相変わらず君のその顔は酷く情欲を掻き立てられるよ、日向くん。――いや、昔みたいに呼ぼうか。泉――。」
そっと触れて来た手に、泉はそっと目を閉じる。
「――狡噛執行官から手を引いて頂けませんか。」
「それは――、君の大切な人だからかい?」
その言葉に、彼が全て分かっているのだと泉は悟った。