第8章 あとは、沈黙。
――君に取っての優しい世界とは。
「その弾丸で撃ち抜いて。私の心を、体を、想いを、どうか。」
「おや。良くここが分かったね。」
カツンと響いたヒールの音に、槙島は笑う。
「――丁度良かった。一緒に見届けると良いよ。」
そう言って槙島は璃華子に電話を掛けた。
「念の為最後に質問をしておきたい。王陵璃華子。何故僕を失望させる事になったのか、君自身に自覚はあるかな?」
『――何の話です?私が一体何を?』
「うん。自覚が無ければ反省の仕様も無い。やはり君にはこれ以上の成長は期待出来ないようだ。残念だよ。初めはもっと前途の有望な子だと思っていたんだが。」
『先生――!槙島先生?!一体どう言う事なんですか?』
「――ゴートの女王・タモーラの台詞だったかな。」
槙島はそう言って、携帯を泉に向ける。
「――可愛い息子達からのご褒美を奪う事になる。あの子達の情欲は満たしてやらねば。」
『その声――!貴方、さっきの!』
泉の正体に気付いた璃華子が叫ぶが、槙島は電話を切る。
「――酷いこと。」
『さぁ、狩りが始まるぞ。白々明けの朝、野原は馨しき香り。森の緑は濃い。此処で猟犬を解き放ち声高く吠えさせよう。真夜中になると此処は何千もの悪魔やシューシューと威嚇の音を立てる蛇。何万もの子鬼や体の膨れ上がったヒキガエル共が集まって身の毛もよだつ狂乱の叫びを上げる。』
まるで詩人の如く読み上げる槙島に、泉は黙って視線を向ける。
『この女の涙を見るのは貴方の名誉になる。ただし心を火打ち石にして涙の雨垂れなど跳ね返すこと。さて。その舌で喋れるなら告発するがいい。誰に舌を切られ誰に犯されたか。思いの丈を書いて訴えるがいい。その二つの切り株で字が書けるなら。』
そこまで言えば、パタンと本を閉じる。