第7章 紫蘭の花言葉
――この世界は嘘で創られている。
「怖いからと嘯いて、残らず切り捨ててしまいたかった。出来ないって、初めから解ってた。」
その何とも言えない死体に、4人は立ち尽くす。
「――これって、まさか。」
朱が呟いたと同時に、宜野座が言う。
「今回の捜査から外れて貰うぞ、狡噛。」
「何でだ、ギノ。」
「余計な先入観に捕われた刑事を初動捜査に加える訳には行かない。」
「そんな!でもまだ標本事件と一緒って訳じゃ――!?」
その瞬間、朱は失言だったと口を紡ぐ。
その様子を一瞥して泉は口を開く。
「私の行動を制限する権限はないわよね、宜野座監視官。」
「――その通りだ。来るなら来い。」
その言葉に、泉は満足そうに笑う。
「なら常守監視官。どうやら事情を知っているみたいだし、慎也の監視をお願いね?」
「は、はい!」
慎也を朱に任せれば、泉は宜野座と共にその場を去った。
「整理する。渋谷区代官山の公園で発見されたバラバラ死体は葛原沙月。全寮制の女子高等教育機関桜霜学園の生徒だ。一週間前から行方不明になっていた。」
「あら、嫌だ。母校よ。」
「え?泉って桜霜学園出身?!超お嬢様じゃん!」
縢の言葉に、泉は苦笑する。
「なぁに?見えないとでも言いたいの?」
「あ、いや。」
「おい、待てよ!泉ちゃん!桜霜学園って――。」
何かに気付いた征陸に、泉は頷く。
「えぇ。そうよ。標本事件の容疑者・藤間幸三郎の勤務先。」
「遺体は特殊な薬剤に侵食されタンパク質がプラスチック状に変質。分析の結果、これは3年前の事件で使われた薬品と同一である事が判明した。確かに同一犯の可能性は高い。」
宜野座が画面を打ち出せば、征陸は苦々し気に呟く。
「謎の殺人鬼が3年振りにカムバックって訳か。」
「ギノさぁん!本当に狡チャン、外して良かったんスか?あの人標本事件の捜査って続行してたデショ?なんか新しい手掛かりとか掴んでたカモ。」
縢が泉を気にしながらもそう言うと、宜野座は忌々しそうに呟いた。
「ヤツの報告書には目を通してある。あれはただの妄想の羅列だ。」
「――酷いこと。」
泉は苦笑混じりに呟いた。