第7章 紫蘭の花言葉
――その箱舟の向かう先は。
「どうでもいいのに、どうでもいいならどうして、わたしは走っているのだろう。」
その頃、慎也は道場にいた。
「やり過ぎですよ!狡噛さん!」
見兼ねた朱が止めれば、ようやく慎也は手を離した。
「うわ!スパーリング最高レベルに設定してあるじゃないですか!本当に人間ですか?狡噛さん――。」
「あぁ!それでもパラライザーで撃たれれば気絶するただの柔な人間だ。」
「う――。後で絶対管財課から怒られますよ?」
「ダサ過ぎんだよ、このシステムが。」
忌々しそうに言えば、慎也は煙草に火を点ける。
朱はその様子を横で見ていた。
「――俺の顔になんかついてるのか?」
「え?!いや、別に!――ドミネーターほど強力な武器が支給されるのに、ここまで過剰な戦闘訓練が必要なんですか?」
「必要だ。強くて優れた武器を扱うからこそ、その使い手はより強くタフでなきゃいけない。相手を殺すのはドミネーターじゃなくこの俺だとそれを肝に銘じておくためにもここにちゃんと痛みを感じておかないとな。」
そう言って拳を見せた慎也に、朱は言葉を失った。
「未解決事件。――公安局広域重要指定事件102について、こっそり覗き見するみたいに調べたのは謝ります。」
「――何故、謝る?」
「怒ってないんですか?!」
驚くように声を上げた朱に、慎也は笑う。
「どうして俺が怒らなきゃならないんだ?過去の部下を殺された事件の事で?3年も経つのに解決出来ていない事件の事で?――怒らないさ。俺が怒るとすればその対象は自分自身以外有り得ない。あの事件。藤間幸三郎の裏で糸を引いていた黒幕に俺は掠る事すら出来なかった。」
「今回の事件も同じ人物が関与していると?」
「まだ分からない。ただの手の込んだだけの模倣犯と言う可能性もある。だが調べる価値があるのは間違いない。」
その言葉に、朱はギュッと拳を握る。
「――捜査から外されちゃいましたね。」
「別に良いさ。あんまりギノを困らせてもな。それに向こうには泉がいる。あっちはアイツに任せとけば良い。」
そこには揺らがない信頼感があった。