第6章 狂王子の帰還
――そうして、また時間は廻り出す。
「どうしてだろう。どうしてみんな、僕の思い通りに動いてくれるんだろう。」
「人間に出来て動物に出来ない事が山程ある。そのウチの一つが安全制御だ。人間はどんなものにでも安全装置を付けて来た。執行官にも監視官と言う安全装置が付いている。君が操ったドローンには特に厳重な装置が付いていた。絶対に安全だったはずのドローンに殺人行為を実行させたメモリーカード。君はどこで入手した?」
宜野座の詰問に、金原は息を呑んだ。
カラカラと回る換気扇の音が緊張を煽った。
「八王子のドローン事件で金原が使ったセーフティキャンセラーと御堂のホログラフクラッキング。まぁどっちのソースコードもほんの断片しか回収出来なかったんだケド、明らかに類似点がある。同じプログラマーが書いたって線にアタシは今日付けてるブラジャーを賭けても良い。」
真剣な顔で言う志恩に、泉は笑う。
「いらねぇよ!」
思わず声を上げたのは、縢だった。
「御堂は確かにソーシャルネットのマニアではあったが、公共のホロに干渉出来る程高度なハッキング技術は無かった。金原も御堂も電脳犯罪のプロからバックアップを受けていたのは間違いない。」
「しかし肝心な金原の供述がコレじゃあなぁ。」
征陸がため息を吐きながら、金原の供述を映し出す。
『本当だ!ある日いきなり俺宛に郵送されて来た!送り主の手紙には名前も無くて、ただあの工場に恨みがあるから一緒にメチャクチャにしてやろうって!』
「愉快犯、にしては悪質ですよね?」
「そもそも金原が殺人を犯すと送り主はどうして予測出来たんだ?」
「とっつぁんも職員の定期診断記録だけで金原に的を絞ったんだ。同じ真似を出来るヤツがいた。あの診断記録が部外秘だった訳じゃない。」
「じゃあソイツが御堂を手伝った動機は?」
征陸の質問に答えたのは、慎也ではなく泉だった。
「動機は金原と御堂にあったわ。ヤツはきっとそれだけで充分だったのよ。」
「――?!」
「泉?!」
宜野座が声を荒げると同時に、慎也が立ち上がる。
「殺意と手段。本来揃うはずのなかった二つを組み合わせ新たに犯罪を創造する。それがヤツの目的だ。」
それだけ言えば、慎也が泉を連れて部屋を後にする。
宜野座は二人を追った。