第6章 狂王子の帰還
――私を赦さないで下さい。
「時が過ぎてしまうのと同じように君も消えてしまうだなんて知らなかった頃の幼い僕は、」
「日向さんはどうして隔離を?」
「あぁ。泉の事も聞いちゃったのね?あの日。佐々山くん達と潜入捜査をしてたはずの泉は意識不明の重体で街中で見付かったの。多分佐々山くんと一緒に掴まったはずなんだけど、何故かあの子は殺されなかった。最も記憶は何もないみたいだけどね。意識が戻った泉は慎也くんと捜査するって聞かなかったんだけどねぇ。宜野座監視官が無理やり止めたのよ。せめて彼女だけでも救いたかったんでしょうね。」
その言葉に、誰もそれ以上言葉を紡げなかった。
朱が去った後でカツンと響いたハイヒールの音に、志恩は笑う。
「――聞いてた?」
「人の過去を勝手に喋るのは頂けないわよ?」
「だぁってぇ。仕方ないじゃない?あんなに必死に聞かれるとつい、ね。」
悪びれない志恩に、泉はため息を吐く。
「知らない方が幸せな事もあるわ。」
「否定はしないけどね。――あの日の事とか?」
「――記憶は無いって言ったでしょう。」
探るような視線に、泉はハッキリと言う。
「分かってる。――泉。アンタは今でもあの時、止めた私達を怒ってる?」
志恩がそう問えば、少しだけ間を置いて泉はようやく笑顔を浮かべた。
「――感謝してるわ。志恩と伸元には。二人が私を隔離してくれなかったら、私は今頃慎也と同じ執行官になってた。」
「やっぱり潜在犯にはなりたくない?」
自嘲するように問えば、泉は酷く歪んだ顔で笑った。
「――だって。私が監視官でいなきゃ慎也は好きに動けないわ。」
「――泉!アンタ、まさかそれで――?」
「内緒よ、志恩。友達でしょ?」
「――バカよ、アンタ。」
「知ってる。」
全てを諦めたように笑う泉に、志恩は泣きたくなった。