第6章 狂王子の帰還
――私は大丈夫よ、そう言って笑った。
「ねえお願いだから、あんまり笑わせないで? 反吐が出るのよ。」
「で~もさ、なんでデータベースで調べないわけ?監視官なら権限あるっしょ?」
料理をしながら、縢が問う。
「ファイル閲覧したら狡噛さんにバレちゃうじゃない。」
「バレちゃまずいわけ?つかそんなに狡チャンのコト、気がかりなのかい?それって恋?」
そう言った縢に、朱は声を上げて笑う。
「縢くんって恋したコトあるの?」
「あのね、朱ちゃん。俺ってば人生の先輩よ?恋どころか悪い遊びは一通りこなしてるんだぜ?健全優良児の朱ちゃんなんて想像もつかない世界を覗いて来たワケさ。」
「えぇ?」
疑わしそうな声を上げる朱に、縢はボトルを指差す。
「例えば、コレ。」
「ジュース?」
「違う!酒だよ!本物の酒!征陸のとっつぁんのお裾分け。今じゃ皆中毒性が怖いからって安全なメディカルトリップかバーチャルばっかじゃん?」
「――それ、呑むんだよね?火、点けるんじゃなくて。」
「は?」
「あ、うぅん。なんでもない!」
「ま、こう言うイケナイお楽しみも今じゃ俺らの特権ってワケ。」
「ふぅん?ぅわ?!美味しい!」
ツマミ食いをすれば、朱は目を輝かせる。
「これが本物の料理ってもんさ。コラコラ!酒のツマミだって言っただろ?」
「ケチ。」
「ま、泉のが美味いけどね。泉の料理、絶品だぜ?毎日食べれる狡チャンが羨ましいよな。」
「――毎日?」
朱が首を傾げたので、縢は目を丸くした。
「あれ?知らない?あの二人一緒に住んでんだぜ?」
「そうなんだ。――日向さんと狡噛さんっていつから付き合ってるの?」
「さぁ?俺が任命された時には狡チャンはもう監視官降ろされてたし。泉はまだ療養中で隔離されてたからなぁ。」
酒が入った縢が喋り出せば、朱は考え込む。
「――隔離って、一体何が?」
「さぁ?なんかその時、狡チャンの部下だった執行官が殺されたってハナシだったけど。」
「殺された?」
「そ。犯人追っかけてたはずが逆に犠牲者になっちゃったのさ。確か佐々山とか言ったな。」
その名前を、朱は静かに反芻した。