第6章 狂王子の帰還
――それは、残酷な記憶。
「だからせめて君と云う思い出の欠片を美化して僕は笑っていたかったんだ。」
「はぁはぁ。」
『シェパード2!先行し過ぎだ。今どこにいる?』
「ハウンド4が――、佐々山が見付からない!どうなっている?アイツはどこに行った?!」
『落ち着け、狡噛!日向が先程意識不明で見付かった!状況が掴めない!一旦戻れ!』
「泉が?!――俺は佐々山を連れ戻す!」
そう言って一歩を踏み出した慎也の目に飛び込んで来たのは、佐々山の死体だった。
「――?!?!」
「慎也!大丈夫?魘されてたみたいだけど。」
目を覚ました慎也の目に飛び込んで来たのは、心配そうな泉の顔だった。
「泉――?」
「どうしたの?悪い夢でも見た?」
汗を拭ってやりながら問えば、慎也は泉を抱き締めた。
「――佐々山が。」
その言葉に、泉はそっと背中を抱き締め返す。
「――もう悪い夢を見ないようにこうしててあげる。」
「お前もあの日、意識が無いままで搬送された。」
「うん。ごめんね。慎也が死にそうな顔してたって志恩が言ってた。」
慎也はきつく泉を抱き締めれば、搾り出すような声で言った。
「もう――、あんな思いはたくさんだ。」
「頑張ってる様子じゃない。」
「まだ経験が浅い分、心得違いをしている部分も多々ありますが優秀な人材なのは事実です。将来的には有望かと。」
局長室でモニターに映っていたのは、朱のデータだった。
「そうあってくれれば良いが。君の同期生のような残念な結末に至る可能性も決してゼロではない。」
「――はい、局長。」
「君達、監視官の職務は過酷だ。多くの犯罪者、そして執行官たちの歪んだ精神と直面しても尚、任務を遂行出来る不屈の精神が必要なのだ。君とて油断は禁物だぞ、宜野座くん。犯罪係数と遺伝摘出の因果関係はまだ科学的に立証された訳ではない。だが裏を返せばまだ無関係だと照明された訳でもない。君が父親と同じ轍を踏む事のないよう心から祈っているよ。」
「――肝に銘じておきます。」
「それと。日向くんはどうだ?復帰させたのは時期尚早では無かったと思うか?」
その質問に、宜野座は答える事が出来なかった。