第5章 誰も知らないあなたの顔
――許さないで、と願った。
「可哀想にね、なんて吐き捨てられた言葉に、尻尾を振って喜ぶなんて虫酸が走るよ!」
「――何でお前らは無傷なんだ?」
ジトッとした目で宜野座が見れば、縢は困ったように視線を避けた。
「いや、そんな睨まれても。」
「日頃の行いじゃないですか?」
無事な二人とは余所に、宜野座は手を負傷していた。
「でも大した怪我じゃなくて良かったわ。」
「あぁ。――どうした?」
泉が包帯を巻いていれば、狡噛から通信が入る。
『また一人ガイシャが出た。例のスプーキーブーギーだ。常守監視官の同期生を更にアフィリエイト収入で絞り込んで突き止めた。菅原昭子、ハタチ。現場の自宅は葉山の時と全く一緒だ。下水管から遺体の断片。なのにアバターだけがネットをうろつき回ってる。死亡推定時刻は今日未明。昨日のエグゾゼの出入りの後ヤラれたな。』
慎也の報告に、宜野座は苛立ったように言う。
「――戻って唐之杜や泉と捜査の方針を立て直す。このままじゃヤツの掌の上で踊らされるだけだ。」
「伸元――。」
「戻るぞ。日向監視官。」
そう言って宜野座は立ち上がった。
「また一件妙なのが見付かったよぉ?メランコリアレイニーブルー。82歳のジイさんのモノだったけど聞けば孫に頼み込まれて名義だけ貸してたみたい。で、この孫が実は半年前に事故死してるんだって。時任雄一クン、14歳。ところが彼のメランコリアは死後も活動を続けてる。祖父はソーシャルネットのアクセス方法すら分からずアフィリエイトの入金も年金と勘違いしていた有り様だった。」
「――レイニーブルーもすごい大手です。」
朱が言えば、縢が茶化す。
「増える増える。幽霊アバター。」
「別々のアバターを同時にいくつも操るなんて可能なのか?」
「ヘビーユーザーなら珍しい事じゃないわよね?」
志恩の言葉を引き継いだのは、泉だった。
「寧ろ異常なのはこの犯人の演技力ね。乗っ取られたアバターが怪しまれるどころか返って人気者になってるなんて皮肉よね。」
「泉?」
「――それだけ熱狂的なファンって事かしら?」
泉がニヤリと笑った。