第5章 誰も知らないあなたの顔
――白にも黒にもなれない、なりたくない。
「いいえ、いいえ、答えは、ハイです。」
「ごめんなさい。」
「昔からこう言う場面で良く使う言葉を貴方に送るわ。ごめんで済んだら警察はいらないんじゃない?あれだけ大騒ぎしておいて結局本命のタリスマンは逃亡。はぁぁ。本当に警察なんかと手を組むんじゃなかった。」
スプーキーブーギーは酷く不快そうにそう告げた。
「で、でもね。タリスマンが犯罪に巻き込まれているのは間違いないの。貴方だってそれを見過ごせないと思ったから手伝ってくれたんでしょう?」
「いい加減にして。私はスプーキーブーギー・ザ・アナーキー。もうどんな事があろうと金輪際、貴方達の手先にはならないわ。」
「そ、そんな!」
朱の説得も空しく、そのコミュフィールドは遮断された。
「――はぁ。」
「友情にヒビ入れちゃったかしら?」
志恩が茶化すように言えば、朱は首を振る。
「でもそもそも同級生ってだけで誰なのかまでは分からないし。」
「今のチャットはログを取ってあるな?」
「え?そりゃ勿論。」
慎也の問いに、志恩は頷いた。
「タリスマンサルーンは相変わらず千客万来。葉山公彦の幽霊は今日ものうのうと人生相談に大忙し、と。」
志恩が言えば、縢が皮肉そうに言う。
「逃げも隠れもしないどころかクラブ・エグゾゼの件、ネタにしてる有り様ですよ。」
「そもそもコイツは何がしたいんだ?葉山公彦が生きているように見せかけるのが目的なのか?」
「だったら銀行口座や外出記録を二ヶ月放っとく訳がないでしょう?」
宜野座の問いに、泉は淡々と答える。
「やっぱりアバターを乗っ取るのだけが目的なんスかねぇ?」
縢が呟けば、宜野座が腑に落ちないとばかりに言う。
「愉快犯と考えれば有り得るがその為に殺人まで犯すか?」
「ギノ。犯罪者の心理を理解しようとするな。飲み込まれるぞ。」
「フン。それは貴様自身に対する戒めか?狡噛。」
火花を散らした二人を止めたのは、泉だった。
「二人とも。そこまでよ。」
それ以上は誰も声を上げなかった。