第4章 誰も知らないあなたの仮面
――夜の帳が、降りて来る。
「愛していますと泣き崩れた貴方。」
「表は宜野座達が裏はドローンが固めている。後はヤツが現れるのを待つだけだ。」
「しかしコイツは当世風の仮面舞踏会って趣きか?」
「誰が誰だか分からない状態でこんな狭い場所に押し込められて、コイツら不安じゃないのか?」
慎也と征陸の問いに、泉が笑う。
「二人とも古臭いのね。匿名制を怖がってたらソーシャルネットなんて出来ないわよ?」
「これはバーチャルじゃない。殴れば血が出るしナイフ一つで命を奪えるリアルな空間だ。なのに隣にいるやつの正体すら分からない。正気の沙汰とは思えんな。」
慎也が憎らしげに言えば、朱は思わず口を挟む。
「そんな考え方してるからサイコパスが濁るんですよ。」
「――そうかもね。」
ワントーン低くなった泉の声に、朱は失言だったと悟る。
「あ!す、すいません!そんなつもりじゃ!」
「いや、全くの正論だ。な、泉。」
「おい、ヤツだ。ここからじゃ狙えんな。他の客が邪魔だ。」
征陸が言えば、全員がタリスマンを見る。
「私が接近してみます。」
朱はそう言えばレモネードキャンディーのホロコスを被る。
『鎮圧執行システム、オンライン。』
その頃、ドミネーターの信号が感知されタリスマンの耳に入っていた。
間もなく会場がタリスマンのホロコスへの透視ハッキングでパニックになる。
ドミネーターを構えれば犯罪係数が超えたアバターばかりで、一斉摘発の名に相応しいものになってしまった。
「――泉。帰るぞ。」
姿が見えない泉を探していれば、彼女の姿は屋上にあった。
慎也が自分のジャケットを泉に掛けてやれば、泉は初めて後ろを向いた。
「――サイコパスが濁るのはなんでだと思う?」
「さっきの常守監視官が言った事を気にしてるのか?お前らしくないな。」
「だって――。慎也の考え方がサイコパスを濁らすなら私のサイコパスだって濁るはずじゃない?」
それはずっと抱えていた疑問。
けれどそれを払拭するように、慎也は泉の額に口付けた。
「お前は濁らせないよ、絶対に。」
誰よりも優しい人だと、知っているのに。