第1章 犯罪係数
――そうして、幕は上がる。
「「くたばってくれよ」と君が云った。僕は笑顔で足を踏み外す。」
「おっ?そっちのカワイコちゃんが噂の新入りっすか?ギノさぁん!」
鼻の下を伸ばして問う縢を宜野座は一瞥する。
「――常守朱監視官だ。今日から貴様らに取って3人目の飼い主になる。」
「よ、宜しくお願いします!」
ペコリと頭を下げた朱に、泉は人知れず苦笑する。
『執行官』に礼を尽くす『監視官』は珍しい。
「全員対象のデータには目を通してあるな。今から袋のネズミを更に締め潰す。二手に分かれて順繰りに行く。六合塚と縢は俺と来い。後の二人は――、常守監視官に同行しろ。」
「了解。」
六合塚が答えれば、黙っていた泉が声を出す。
「秀星と弥生は伸元と。慎也と智己さんは常守監視官と。では私は?」
その問いに、宜野座はチラリと泉を見る。
「好きにしろ。どちらに来ても構わん。単独行動でも良いぞ。」
「あら。随分と信用があるのね、私?」
「え~!じゃあこっちに来てよ、泉!俺と回ろ~?」
甘えるように言う縢に泉はどうしようかと迷う。
すると後ろから首根っこを掴むように引かれた。
「ぐぇっ!ちょ!慎也。首!締まる!」
「お前はこっちだ。行くぞ。」
そう言えば各自ドミネーターを手に取る。
宜野座のチームはさっさと行ってしまったので、残された朱はどうするべきか思案する。
「えっと――。どうすれば?」
「アンタが待機を命じてくれれば何の問題もないんだが?」
「給料泥棒はやめときな、とっつぁん。」
ふざけたように言う征陸に、慎也は諌めるように言う。
「まぁアンタは初めてだろうから、今回は泉ちゃんに任せときな。」
「え?」
その言葉に促されるように泉を見れば、彼女は丁度ドミネーターを構えていた。
「――全く。雨は嫌いなのよ、私。」
「そう言いなさんな。泉ちゃんは水も滴る良い女、だろ?」
「あら。相変わらず智己さんは私をその気にさせるのが上手いわね。」
クスクスと笑いながら泉が言えば、後ろから慎也が声を掛ける。
「泉。さっさと終わらせて帰るぞ。」
その言葉に、朱は違和感を感じた。