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ラ・カンパネラ【PSYCHO-PASS】

第1章 犯罪係数


――明けない夜を探していた。





「世界に置き去りにされたわたしには、あなたの言葉なんて届かないのよ。」




ざあざあと降る雨が非常に鬱陶しかった。
傘も差さずに日向泉は空を仰いだ。

「――鬱陶しいわね。」
「では傘を差せ。風邪を引くぞ、泉。」
「伸元。」

後ろから差し出された傘に、泉は口元に笑みを作る。

「大体こんな雨の日に事件を起こすなんて良い度胸してるわ。見つけたら私がシメる。」
「日向監視官。口が悪いといつも怒られているだろう。」
「――失敬。宜野座監視官。」

泉が恭しく敬礼をした瞬間、女性の声が聞こえて来る。

「あの――、監視官の宜野座さんでしょうか?」
「俺だ。」

振り向けばそこにいたのは、まだ年若い少女だった。
泉は昨日渡された資料を思い浮かべる。

「配属早々に事件とは災難だったな。」
「本日付けで刑事課に配属になりました常守朱です。どうぞ宜しく――!」

朱の言葉を遮るように、宜野座は言葉を続ける。

「悪いが――。刑事課の人手不足は深刻でね。新米扱いはしていられない。」

その冷酷とも取れる態度に異議を唱えたのは、朱ではなく泉だった。

「宜野座監視官。もう少し愛想良く出来ないわけ?常守監視官が怯えてるじゃない。」
「生憎、愛想は持ち合わせていないんでね。それはお前の仕事だろう、日向監視官。」

その言葉に、朱の視線が泉に向く。

「貴方が日向泉監視官、ですか?」
「えぇ、そうよ。ようこそ、刑事課へ。後輩がようやく出来て嬉しいわ。」

泉は優しく微笑むと、そっと手を差し出した。

「あ――、宜しくお願いします!」

丁度その時、一台の護送車が到着する。
その護送車を冷たい目で見ながら宜野座は告げた。

「これから会う連中を同じ人間と思うな。奴らはサイコパスの犯罪係数が規定値を越えた人格破綻者だ。本来ならば潜在犯として隔離されるべきところを、ただ一つ許可された社会活動として、同じ犯罪者を駆り立てる役目を与えられた。奴らは猟犬。獣を狩るための獣だ。それが執行官。君が預かる部下達だ。」
「――執行官。」

朱はゴクリと唾を呑み込んだ。
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