第35章 過去編:名前のない怪物
「一体、どう言う事なんだ!」
「ちょっと慎也くん!落ち着いて!」
いきりたつように佐々山に怒鳴る慎也を、志恩や宜野座は押し留める。
「泉を一人で扇島に戻すなんて正気か、佐々山!」
「悪かった!こればっかりは俺が悪かったよ!」
そもそも執行官である佐々山に権限と呼べるものはない。いくら佐々山がついて行くと言ったって監視官である泉が嫌だと言えばそれ以上の行使は出来ない。
つまり慎也の怒りはお門違いなのだが、佐々山は素直に謝った。
自分が目を離したせいで、泉が何者かに襲われた。それは事実だった。
眠ったままの泉の頭を撫でながら、慎也は怒りが収まらずに言う。
「泉にもしもの事があったら、俺はお前を許さないぞ。」
「分かってる。その時は、お前の手で俺を殺せ。」
「はいはい。そこまで。慎也くんも。一通り検査したけど、お姫様は無事よ。薬で眠らされただけ。レイプされた形跡もないし、安心しなさい。」
志恩の言葉に、慎也は少しだけ落ち着いたようだった。