第35章 過去編:名前のない怪物
「別に。何も僕らは、仲良しこよしの相棒って訳じゃない。お互いの利害が一致したからこうやって行動を共にしているって言うだけだ。僕は僕の目的の為に。そして君は、そんな僕を観察する為に。その興味が持続しているって言うのは喜びこそすれ、気分を害すようなことじゃない。」
藤間の毅然とした物言いに、槙島の深部が熱く疼く。
「普通人間は、上位存在である観察者に対して、なんらかの敵意を持つものだが?」
「臆面もなく、自分を上位的存在だと言ってのける聖護くんの人間性、嫌いじゃないよ。」
「どうも。」
藤間は槙島の事をあたかも学友かのように、ファーストネームで呼ぶ。
その二人の関係性においては余りに不釣合いな呼称を、槙島は気に入っていた。藤間の計り知れない内面がそこに表出しているような予感がするからだ。
悦にいる槙島をよそに藤間は言葉を続ける。
「でもそれはあくまでも主観的なものだ。人間の関係性なんて、相対的なものだ。聖護くんの観察眼が、僕の精神性に到達出来なかった場合、果たして君は、上位存在と言えるだろうか?」
「僕は君の精神性に到達出来ないと?」
意図して多少扇情的に問い掛ける。しかし藤間の心象にはさざ波一つ立たないようだった。
「どうかな。そうやすやすと到達されてはたまらない、と言うのが本音かな。」
やはりこの男は面白い、槙島は自分の確信に酔う。