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ラ・カンパネラ【PSYCHO-PASS】

第35章 過去編:名前のない怪物


佐々山が言葉に詰まったところで、丁度二人のデバイスが鳴る。

『泉、佐々山。今日はもう上がりだ。30分後にCエリア2で落ち合おう。』
「シェパード0、了解。行きましょ?佐々山くん。」

泉はニッコリと笑えば、少し前を歩き出した。
その後姿を見れば、佐々山は苦笑する。
良い女だと心の底から思っていた。だからこそ彼女は守らなければいけないと、そう思っていた。

美しい男だった。
その銀髪は朧月のように柔らかく発光し、色素の薄い瞳は、この距離からでもわかるほど、周囲のネオンの光を集め複雑に輝いている。
ファインダーに収めたいと、瞳子は思った。
再度カメラを構えれば、無心でシャッターを切る。
一枚、ピントが合っていないかも知れない。また一枚。
そこでふと瞳子は男の視線が自分のカメラに向いている事に気付いた。
そんなバカな、とは思うが、男の視線は明らかに瞳子に定まっている。
男はゆっくりとこちらに向かって歩いて来る。
頼んだら撮らせてくれるだろうか。先程無断で撮ってしまった非礼を詫び、きちんとお願いしたら。しかし、いくら美しくても、扇島に出入りしている男である。藤間と違って身元が明らかでない男と、そこまでの関係をもって良いものだろうか。
瞳子が考え込んでいる間に、男はもうすぐ側まで迫っていた。
15メートル、10メートル、5メートル――。
もうその銀髪が、瞳子の手に届きそうな位置にまで迫っていた。不思議な、甘く少しすえたような香りが漂って来て、瞳子は眩暈を感じる。どこかでかいだことのある香り。

「おい。」

その時、背後からいきなり肩を掴まれた。
余りの驚きに悲鳴を上げて振り返ると、そこにはいつぞや自分を補導した、短髪の刑事と日向先輩が立っていた。

「まーたこんなところに出入りして。こりねぇなーお前も。」

瞳子が口をぱくぱくさせているうちに、銀髪の男は二人の横を通り過ぎて行った。
気のせいか泉の顔が困惑と驚きを浮かべている気がした。

「――久し振りだね、泉。また改めて。」

擦れ違う狭間で、銀髪の男は二人に聞こえないように泉にだけそう囁いた。
泉は何も返す事が出来ずに、ただひたすらそこに立ち尽くす。
佐々山は男の後姿を見送りながら、全身に冷や汗を感じていた。
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